求人票に“やりがい”ばかり書いても刺さらない時代です

談笑する歯科衛生士

「やりがいはある仕事なんです」
「地域に寄り添う、あたたかい看護をしています」
「“生きる”を支える、やりがいのある現場です」

──そう語る求人票や採用ページを、医療・歯科業界の現場ではよく目にします。

その言葉が嘘だとは思いません。 むしろ、働く人の誇りや、事業所の理念が詰まった大事なメッセージだと感じます。
けれど、こんな悩みはありませんか?

● 「やりがいのある職場だと伝えているのに、応募が来ない」
● 「自分たちの想いはきちんと書いているのに、なぜかスルーされてしまう」
● 「理念を大切にしているのに、なぜ伝わらないのか…」

その違和感、“言っていること”ではなく、“どう伝えているか”に原因があるのかもしれません。

どんなに素敵な想いも、読み手の目に止まらなければ、何も始まりません。

特に、訪問看護や在宅診療、訪問歯科といったフィールドでは、「やりがい」だけでは踏み出せない不安や、生活との両立への現実的な悩みを持つ求職者が多いのも事実です。

この記事では、そんな“やりがい系求人”がなぜ届かなくなってきているのか、そして今、求職者に届く言葉とは何なのかを、順番に見ていきます。

目次

いいことを書いてるのに、反応がない。なぜ?

「伝えたい思いがあるんです。理念も大事にしています」

そう話す経営者・採用担当者の方は、本当に多くいらっしゃいます。地域に根ざした医療や介護の現場、訪問看護や訪問歯科といった在宅医療の分野では、「目の前の人の生活に深く関われること」にやりがいを感じている人が多く、その想いを大切にしたいという気持ちも、きっと本物です。


だからこそ、求人票にはこう書きたくなります。

  • 「誰かの“生きる”を支える仕事です」
  • 「地域に寄り添う、あたたかいケア」
  • 「やりがいを大切にできる方歓迎」

──ただし、ここで立ち止まって考えたいのは、「その言葉、ちゃんと届いていますか?」ということです。

いくら理念に基づいた“いいこと”を書いても、読み手に伝わらなければ意味がありません。そして今、その「伝わっていない求人」が、実際に数多く存在しています。

言いたいこと≠伝わること

求人票に熱を込めた。実際に現場は魅力的。スタッフも活き活き働いている。なのに、応募が来ない。反応が鈍い。アクセスはあるのにエントリーにつながらない。

──そのとき、「うちは魅力がないのかも」と落ち込む必要はありません。

まずは、「伝えたいことが“伝わる形”になっているか?」を疑うことが先です。特にやりがい系の求人は、発信者の想いと受け手の解釈のズレが起きやすい領域です。

こちらは「本気」で伝えたつもりでも、読み手は「なんかふわっとしてて印象に残らない」と感じてしまう。この“温度差”がある限り、どんなに立派な理念も、心に響かないままスルーされてしまうのです。

抽象的な言葉は、誰にも刺さらない

「やりがい」「誇り」「使命感」

──どれも素敵な言葉です。

ですが、それだけではイメージが湧きません。求職者はもっと現実的に、「自分が働く姿」を想像したいのです。
たとえば、

「やりがいのある仕事です」

と書かれるよりも、

「全盲の利用者さんの生活リズムに配慮することの大切さを学びました」

と書かれたほうが、「自分もそんな経験してみたい」と具体的なイメージが湧きます。つまり、伝えるべきなのは“想い”ではなく“実感”です。

読み手は「綺麗な言葉」ではなく「判断材料」を探している

今の求職者は、複数の求人を比較検討し、「本当に自分に合っている職場かどうか?」を見極めようとしています。そのとき、理念や抽象的な言葉は判断材料になりません。

代わりに見ているのは、

〇 実際にどんな毎日を送るのか?
〇 どんな人たちが働いているのか?
〇 働く上でどんな工夫やサポートがあるのか?
〇 大変だった場面を、どう乗り越えてきたのか?

といった“リアルな中身”です。

「言っていることは正しいのに、反応がない」という状況が起きているなら、まずはその言葉が“読み手の視点”に立てているかを振り返ってみるべきです。

読み手が知りたいのは、「やりがい」ではなく、「やりがいを感じられる場面の中身」です。

「誰かの支えになる仕事」←みんな書いてる

求人票や採用ページでよく見かけるフレーズに、

「誰かの支えになる仕事です」
「地域に寄り添う医療を提供しています」

という表現があります。

たしかに、訪問看護や訪問診療、訪問歯科といった在宅医療の現場は、目の前の一人に深く関わることができる仕事です。それゆえ、「支える」「寄り添う」「貢献する」といった言葉を使いたくなる気持ちもよくわかります。

でも、実はそれ──みんな書いてるんです。

“共感”を狙う言葉は、もはやテンプレ化している

・「誰かの人生を支える仕事です」
・「利用者様に寄り添う看護を」
・「地域密着で温かい医療を提供」

…よく見れば、ほとんどの求人票に似たような言葉が並んでいます。それらの言葉が「悪い」のではありません。問題は、「またこのパターンか」と読み手に思われてしまうことです。

特に最近の求職者は、複数の求人を比較検討するのが当たり前。情報収集にも慣れており、「表面的な良いこと」を並べているだけの求人にはすぐ気づきます。

そして、こんな反応をしてしまいます。

「あぁ、また“やりがい系”ね」

「なんかふわっとしてるな…」

「で? 実際どうなの?」

そう、“支えになる仕事”という表現は、もはや差別化にもなっていないのです。

言葉が同じなら、印象は「その他大勢」になる

たとえばあなたが転職を考えていたとして、5つの求人票すべてに「やりがい」「支える」「寄り添う」といった言葉が並んでいたらどうでしょうか?

きっと、どこも同じように見えて、印象に残らないはずです。むしろ「どれも似たようなことしか書いてない」と思って、スキップしてしまうかもしれません。

これは決して読み手の「わがまま」ではありません。

彼らは不安を抱えながら、「自分がここでやっていけるのか」を必死に探しているのです。その判断材料がないまま、気持ちのよい言葉だけ並べられても、共感は生まれません。

共感ではなく、「実感」。
感動ではなく、「納得」。

それがなければ、求人票はスルーされてしまいます。

「伝えるべきこと」は、もっと他にある

誰もが使っている言葉をただ真似して並べても、応募は増えません。今こそ考えたいのは、「うちの職場ならでは」の具体性のある言葉です。

〇 どんな働き方ができるのか
〇 スタッフはどんな人たちで、どんな日常を送っているのか
〇 しんどい瞬間や、ぶつかった壁はどう乗り越えてきたのか

──こうした情報があるからこそ、言葉に“厚み”が出ます。

それがあって初めて、「支えになる仕事」「やりがいがある現場」という言葉にも説得力が宿ります。

求職者が読みたいのは、「共感」だけでなく「実感」も

「共感してもらえる求人をつくりたい」──

これは多くの経営者や採用担当者が大切にしている視点です。理念や価値観、仕事への想いが伝わったときに、「自分もこういう職場で働きたい」と感じてもらえる。

その意味で、“共感”は求人における非常に重要な入り口です。

ただ、いまの求職者は「共感したから応募する」という流れだけでは動きません。共感できたうえで、「ここならやっていけそう」という“実感”が持てるかどうか。

そこまで届く求人でなければ、読み手の行動にはつながりづらくなっています。

「いいこと言ってるな」では応募にはならない

たとえば、求人票にこんな言葉が並んでいたとします。

☒ 「人間関係が良好なあたたかい職場です」
☒ 「地域に寄り添った看護を提供しています」
☒ 「誰かの“生きる”を支えるやりがいのある仕事です」

どれもまっすぐな言葉ですし、職場の思いが伝わってくるようです。けれど、読み手の目線では「共感はできるけど、自分がここで働くイメージが湧かない」と感じることもあります。

つまり、感情を動かすためには、「共感できる言葉」だけでは不十分なケースもあるのです。

求職者は、“自分ごと”として想像できるかを見ている

訪問看護や訪問診療、訪問歯科といった在宅医療の現場では、特に「一人でまわる」「急変対応がある」「家庭と両立できるか」など、日常的な不安や疑問が多く存在します。

そのため、どれだけ理念や人柄が魅力的に伝わっても、読み手はこう考えます。

・「本当に一人で大丈夫なんだろうか…」
・「急に何かあったとき、誰に相談すればいいの?」
・「未経験でも本当にやれるんだろうか?」

これらの不安が拭えなければ、どれだけ“いい職場”に見えても、応募には至りません。

共感できても、実際の自分が働くイメージが持てないと、次の一歩が出てこないのです。

実感を生む4つの要素とは

では、どんな情報が「実感」につながるのでしょうか。

読み手が「ここならやっていけそう」と思える求人には、共通して以下のような要素が含まれています。

スタッフの声がある

たとえば、「最初は訪問に不安しかなかったけど、3ヶ月で“自分の看護”が出来るようになった」と語るスタッフの声。現場のリアルな言葉は、それだけで共感と納得を同時に生みます。

不安との向き合い方が書かれている

「最初は2週間の同行訪問から。慣れてきたら徐々に一人で出るように」など、段階的な成長プロセスが書かれていると、読み手は安心できます。

自分に似た立場の人が登場する

「子育て中でも続けられている」「未経験からスタートした人も多い」など、自分と近い環境の人が“今働けている事実”が、応募の後押しになります。

印象的なシーンが描かれている

「初めての訪問で緊張していたら、利用者さんが“待ってたよ”と笑ってくれた」

──そんなワンシーンがあると、“ここで働く日常”をリアルに想像できます。

共感を「現実に引き寄せる」のが実感の役割

共感をベースにした求人づくりは、いまもこれからも重要です。ただしそれを「どう感じ取ってもらうか」は、読み手が“自分ごと化”できるかどうかにかかっています。

「言ってることはいいな」と思っても、「でも、自分には無理そう」と思われたら、そこで終わってしまいます。逆に、「その人も最初は自信がなかったのか」「それでも今、働けてるんだな」と実感できたとき、共感は“行動につながる動機”へと変わります。

やりがいは「結果」であって、「フック」にはならない

求人票をつくるとき、つい最初に書きたくなる言葉があります。

〇 「やりがいを感じられる仕事です」
〇 「誰かの人生に深く関われます」
〇 「生きることを支える、尊い仕事です」

──どれも、現場で働く人が日々感じている“本当の想い”から出てくる言葉です。だからこそ、伝えたい。届けたい。共感してもらいたい。

けれど、今の求職者にとって、それらの言葉は“入口”にはなりづらくなっているのが現実です。なぜなら、やりがいとは“結果”として感じるものであって、最初の判断材料にはならないからです。

求職者が知りたいのは「やりがい」ではなく「前提」

応募を考えている段階の人は、まだ「この職場で働いてみたい」とさえ思っていません。そんな状態で「やりがいがあります」と言われても、こう思ってしまうのです。

× 「そもそも、どういう仕事なの?」
× 「やりがいを感じられるのは、どんな瞬間?」
× 「そこにたどり着くまで、どんな道のりなの?」

つまり、「やりがい」以前に、“どんな人たちが、どんな環境で、どんな毎日を送っているのか”を知りたい。その“前提”が見えないまま、「やりがい」と言われても、実感にはつながらないのです。

フックになるのは、「共感」でも「感動」でもなく、「想像できるかどうか」

たとえば、こんな求人票があったとします。

例1)「急な発熱で子どもを迎えに行かなければならなくなった日、“直帰していいよ”と声をかけてくれた」

例2)「新人のころ、緊張で無言になってしまったとき、先輩が“無理しないでいいよ”とサポートしてくれた」

例3)「口腔ケアをした方が口から食べられるようになり、ご家族が泣いて喜んでくれた」

──こうした一場面があるだけで、「あ、自分にも起こりそう」「ここならやっていけるかも」と想像の扉が開きます

この“想像できる感覚”こそが、読み手の「応募しようかな」を引き出す“入口”になります。

「やりがい」を伝えるなら、順番を間違えない

やりがいは確かに大切です。むしろ、それを感じられる職場であることは、最大の魅力と言ってもいい。ただ、それは「伝える順番」が大事です。いきなり「やりがいがあります」と言っても、それが読み手の心に届くのは難しい。

先に必要なのは、次のような情報です。

・どんな人たちが働いているのか(年齢層/職歴/雰囲気)
・一日の仕事の流れはどうか(スケジュール/件数)
・未経験でもやっていけるのか(教育体制/フォロー)
・実際にしんどいことはあるのか(本音/エピソード)

これらを知ったうえで、「それでもここで働きたい」と思ったときに初めて、やりがいは“自分にとっても得られるもの”として意味を持ち始めます。

やりがいを語るなら、「誰が・どんなときに」まで落とし込む

もしどうしても“やりがい”を軸に伝えたいのであれば、抽象的な表現ではなく、“具体的な人と出来事”を通して語ることが大切です。

たとえば──

「病院では関われなかった“暮らしの中の看護”に、自分の存在意義を見つけられた」

「利用者さんが“あなたが来てくれると安心する”と言ってくれた瞬間、あぁ、この仕事を選んでよかったと思った」

このように、感情が生まれた背景まで描くことで、やりがいは“読み手の心に届くストーリー”に変わります。

明日からできる、“伝わる求人”への5つの具体的行動

ここまでの内容を「知識」で終わらせないために、今日から現場で実践できるアクションを、目的別にまとめました。

「やりがいを伝えているのに応募が来ない…」という悩みを、“動き”に変えるヒントとしてご活用ください。

1. 求人票に“実感のある言葉”を入れる

  • スタッフに「最近やってよかったこと/しんどかったこと」を一言だけ聞いてみる
  • 「うちの職場って、どんな人に合わないと思う?」と聞いてみる
  • 「一番最初に覚えている訪問エピソードってある?」と聞き、それを冒頭コピーに使う

2. 理念や制度の説明を「日常の行動」に置き換えてみる

  • 「理念が現れている日常シーンって何かある?」をスタッフに質問する
  • 制度紹介を「実際どう役立った?」というストーリー付きで書き換える
  • スローガンやビジョンを、実際のケア現場の“ふるまい”に変換して書いてみる

3. 求職者が「動きやすくなる仕組み」を求人票の中に入れる

  • 「まずは見学からOK」「カジュアル面談あり」と書き添える
  • 問い合わせ窓口(LINE、DMなど)を目立つ位置に入れる
  • 応募以外の接点(イベント・お試し同行など)を案内に入れる

4. “いいこと”だけじゃない、リアルな一言をあえて入れる

  • スタッフの「実はこれがつらかった」エピソードを、前向きに昇華して掲載
  • 「こういう人は合わないかも…」という本音を、柔らかい語り口で取り入れる
  • 「この仕事、最初は〇〇が怖かった」など“入り口の不安”を言語化してあげる

5. 自分たちの求人を“他人の目線”で読み返してみる

  • スタッフ以外の人に「これ、どんな職場だと思う?」と聞いてみる
  • 求人票を「読み手の過去」としてシミュレーションしてみる(例:育児中/訪問未経験 など)
  • 「この求人、どの部分に“自分もできそう”って思えるか?」を意識して見直す

言葉を整えるだけでなく、“その言葉がどんな場面から生まれたのか”を伝える。そして、「ちょっと話してみようかな」と思える接点を用意する。

それが、誰かの不安をやわらげ、一歩を踏み出させる“求人”のつくり方です。あなたの言葉が、誰かの新しい始まりにつながることを願っています。


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