医療業界で成果を出すダイレクトリクルーティング活用術

事務所で悩みながらスカウトを送っている看護師

「スカウトメールを送っても返信がない」
「応募まで結びつかない」

医療業界でダイレクトリクルーティングを活用したものの、期待していたほどの成果が得られていないという声をよく耳にします。採用担当者として手間をかけて送っているだけに、その反応の薄さに困惑することもあるでしょう。

しかし、現場で成果を出している事業所・医院の多くは、「数を打つ」のではなく、「1人ずつ丁寧に伝える」ことに注力しています。反応が得られない多くのケースでは、テンプレートの使い回しやプロフィールを読まない一斉送信が原因となっており、求職者が関心を持てる内容になっていないのです。

ダイレクトリクルーティングは、本来「個別性」のあるコミュニケーションの手段です。1人1人の背景や価値観を想像し、その人が知りたい情報に医院やステーションの魅力を重ねていく。この積み重ねが「読まれるメッセージ」をつくり、開封率や返信率の改善につながります。

本記事では、医療業界でダイレクトリクルーティングを実践する際に押さえるべき基本の考え方と、具体的な工夫のポイントを5つの視点から順に解説していきます。

目次

なぜ「ダイレクトリクルーティングが響かない」のか?

一斉送信では「誰にも届かない」

ダイレクトリクルーティングが採用手法として注目される一方で、「送っても反応がない」という悩みは後を絶ちません。その原因の多くは、送り手の「効率性」を重視しすぎた姿勢にあります。テンプレートのままのメッセージや、プロフィールを確認せずに送ったスカウト文では、読み手にとっての価値が感じられず、心を動かすことは難しいのです。

例えば、勤務歴や志望動機が読み取れるプロフィールに一切触れず、「当院の雰囲気はとてもよく、長く働けます」といった自分本位の説明だけが並ぶ内容は、求職者にとっては他人事にしか見えません。スカウト文は本来、「あなたに声をかけている理由」が明確に伝わることが前提です。そこが欠けている時点で、開封すらされない可能性が高まります。

「読み手の関心」に届いていないメッセージ

反応が薄いもうひとつの要因は、「読み手が今どんな状況にいるのか」「どんな情報を欲しているのか」に思いを巡らせていない点です。たとえば、今の職場で人間関係に悩んでいる人に対して、「高収入」「スキルアップ」といった内容を訴求しても、響くとは限りません。読み手の悩みや価値観と、こちらが伝えたいことがズレてしまっているのです。

ダイレクトリクルーティングで成果を出すためには、まず「読み手の関心と状況」を正しく想像する必要があります。それがあってはじめて、「この医院やステーションなら、今の悩みが解消されそうだ」と感じてもらえる可能性が生まれます。

求職者はメッセージを「比較」している

スカウトを受け取る求職者は、複数の医院やステーションからメッセージを受け取っていることが一般的です。つまり、1通のスカウト文が他のメッセージと並べて比較される状況にあるということです。その中で「誰にでも送っているような内容」や「自分の情報に触れていない内容」は、すぐに埋もれてしまいます。

求職者は自分に寄り添ってくれるメッセージ、つまり「ちゃんと読んでくれた」と感じられる一文があるだけで、その医院やステーションに対する印象が大きく変わります。逆に、どれだけ条件が良くても、「よくある内容」では心が動かないという現実があります。

採用担当者が見落としがちな視点

「いい条件を提示しているのに」「自分たちの魅力をしっかり書いているのに」という思いがあるかもしれません。しかし、それはあくまで送り手側の視点です。受け取り手が「その情報を求めているかどうか」は別問題です。

ダイレクトリクルーティングが「一方通行の情報発信」になっている場合、その効果は限定的です。成果が出ないときには、まず「自分たちが伝えたいこと」ではなく、「相手が読みたいことは何か」という視点で見直すことが重要です。

「プロフィールの読み込み」が開封率を変える

なぜ「読んでもらえない」のか?

スカウトメッセージの開封率が低い理由のひとつに、「誰に向けて書かれたのかがわからない」という問題があります。求職者の立場からすれば、明らかにテンプレートで送られたメッセージや、自分の経歴に一切触れない内容は「読む価値がない」と判断されても不思議ではありません。

逆に言えば、「あなたのプロフィールをちゃんと見ています」という意思が伝わる一文があるだけで、開封される可能性は大きく高まります。それは「あなたに関心がある」というサインになるからです。

小さな違いが「関心」を引き出す

たとえば、プロフィールに「育児と両立しながら働きたい」と書かれている方に対して、「お子さんがいる方も在籍しており、急な休みにも対応しています」といった情報が最初に出てくれば、読み手は「これは自分に関係ある話かもしれない」と思って続きを読みます。

他にも、「訪問看護に興味があります」と書かれていれば、「当院では未経験の方にも同行から始めてもらっています」といったメッセージが効果的です。このように、わずかなカスタマイズでも、読み手が感じ取る「誠意」や「関心の深さ」は大きく変わります。

「プロフィールを読む」とは、情報を拾うことではない

プロフィールの読み込みというと、年齢や経歴、資格の有無など“条件的な情報”だけを確認するケースが少なくありません。しかし、より重要なのは「どんな言葉を使っているか」「何にこだわりを感じているか」といった“その人らしさ”を読み取ることです。

たとえば、「以前の職場ではチーム医療にやりがいを感じていました」と書いているなら、協働の雰囲気やチームの文化について触れる価値があります。また、「家庭との両立に苦労していました」とあれば、働きやすさに対する訴求が重要になります。

このように、表面上の情報ではなく、言葉の選び方や行間に注目することで、その人が大事にしている価値観や、今気になっているポイントが見えてくるのです。

「読み手にとっての意味」を探す視点

プロフィールを読む目的は、「条件が合う人を探す」ことではなく、「その人に伝えるべき内容を見極める」ことにあります。採用は、ただの情報提供ではなく、関係づくりの第一歩です。読み手が今抱えている不安や希望を想像し、それに対して医院やステーションが何を提供できるかを伝える。これが、反応につながるメッセージの出発点です。

明日からできる改善ポイント
・スカウトを送る前に「プロフィール内のキーワード」を1つ抜き出す
・そのキーワードをもとに、冒頭に1文だけカスタマイズを加える
・年齢や資格ではなく、「どんな言葉を使っているか」に注目して読む
・「この人に何を伝えたら響くか?」をメモする習慣をつける

「相手の知りたいこと」に医院やステーションの魅力を重ねる

「魅力を伝えたのに響かない」理由

スカウトメッセージに自院の魅力を盛り込んだにも関わらず、求職者からの反応が得られない

――こうしたケースは少なくありません。その原因の多くは、「相手が求めている情報」と「こちらが伝えている内容」がかみ合っていない点にあります。

たとえば、送り手側が「教育制度が充実している」「福利厚生が整っている」とアピールしていても、読み手が「家庭と両立できる働き方」や「現場の雰囲気」を重視している場合、それは的外れな情報となってしまいます。つまり、いくら魅力があっても、それが今の自分に関係ない話だと認識されれば、スルーされてしまうのです。

求職者は「今の悩み」が解決できるかを見ている

求職者がスカウトに求めているのは、自分が今抱えている悩みや不安が「ここなら解決できそうだ」と思える情報です。たとえば、「職場の人間関係に疲れている人」には、「チームの雰囲気が柔らかく、相談しやすい環境です」といった話の方が効果的ですし、「夜勤が体力的に厳しい人」には、「日勤のみの働き方も選べます」といった情報が刺さります。

このように、医院やステーション側の魅力をただ一方的に並べるのではなく、読み手の悩みや希望に応じて、その人にとって価値のある情報に翻訳して伝えることが重要です。

「伝え方」を変えるだけで、同じ情報が違って見える

同じ内容でも、伝え方によって印象は大きく変わります。たとえば、

・「教育体制が整っています」 → 「ブランクのある方にも、OJTで丁寧にサポートしています」
・「福利厚生が充実しています」 → 「子育て中のスタッフも多く、急な休みにも対応できる体制があります」

このように書き換えるだけで、読み手にとっての「自分ごと」になりやすくなります。

「誰に何を届けるか」を明確に

スカウト文は、すべての人に刺さる内容を目指す必要はありません。むしろ、「特定の誰か」にしっかり届くことを意識するべきです。そのためには、読み手が今どんな立場にあり、どんな不安や希望を持っているのかを想像し、その背景に自院の特徴や魅力を重ねていくことがポイントになります。

明日からできる改善ポイント
・スカウト文の冒頭に「相手の悩みに共感する一文」を入れる
・自院の魅力を「何に役立つか」「どんな不安に応えられるか」で言い換えてみる
・魅力を5つ挙げ、それぞれ「誰にとって価値があるか」を検討しておく
・「すべての人に伝える」ではなく、「この人に伝える」意識で文章を作る

文章のカスタマイズが返信率を上げる理由

「この人、本当に自分を見てくれている」かどうか

スカウトメッセージが返信されるかどうかを左右する要素として、文章のカスタマイズ度は非常に大きな意味を持ちます。テンプレートの使い回しでは、読み手にとって「自分宛てではない」と感じさせてしまい、感情が動きません。一方で、数行でも「自分にだけ書かれている」と感じられる一文があると、返信率は一気に上がります。

たとえば、

「◯◯のような経験をお持ちの方にお会いしたいと思いました」
「△△というお考え、プロフィールで拝見して共感しました」

など、相手のプロフィールの中から具体的な要素に触れた一文を入れるだけで、「この人はちゃんと見てくれている」と伝えることができます。

カスタマイズは「内容」より「視点」が大切

スカウト文を1通ずつ書くのは手間がかかりますが、大切なのは「すべてを書き換える」ことではなく、「読み手の目線で構成を調整する」ことです。必要なのは、冒頭部分の共感、関心を引くパートの差し替え、そして最後の一言に「なぜ声をかけたのか」の理由を添えること。それだけで、読み手の印象は大きく変わります。

このように視点を変えるだけで、テンプレート的な文面も自分のためのメッセージに変わるのです。

「見てくれた感」が信頼をつくる

求職者にとって、スカウトは初めての接点です。その段階で「この医院やステーションは、自分のことを理解しようとしてくれている」と感じられれば、返信をしてみようという心理的ハードルが下がります。これは、単に内容が良いかどうかという問題ではなく、「自分の背景に配慮してくれる組織かどうか」を見極めるサインでもあります。

たとえば、「子育てと両立されているとのこと、大変な時期かと思います」といった一言があるだけで、「わかってくれている」という感覚を与えることができます。こうした配慮は、採用後の関係にも良い影響を与えます。

テンプレは「参考」であって「完成形」ではない

スカウトメッセージのテンプレートは、あくまで骨組みです。そのまま使うのではなく、読み手ごとに肉付けし直す意識が必要です。「同じ内容を複数人に送る」のではなく、「同じ考え方で複数の人に合わせて作る」という姿勢が、返信率の差に現れます。

もちろん、すべてをゼロから作る必要はありません。冒頭、中盤、結びといったパートごとにカスタマイズの余地を持たせておくと、効率と精度のバランスが取れます。

明日からできる改善ポイント
・スカウト文のテンプレを3分割(冒頭・本文・結び)し、冒頭だけは必ず書き換える
・相手のプロフィールから「共感できる言葉」を1つ抜き出し、それに触れる一文を入れる
・「あなたに送った理由」を明記する一文を加える
・カスタマイズした文面を2〜3パターンストックし、振り返り時に比較できるようにする

数値で改善を進める「分析」の視点

感覚ではなく、数字で判断する

スカウトメッセージを送ったあと、どれだけの人が開封してくれたのか、何割が返信をくれたのか。こうした数値を把握していないと、ダイレクトリクルーティングの効果を正しく評価することはできません。反応がない状態が続くと、「うちの条件が悪いから」「タイミングが悪かったのかも」と、感覚的に原因を推測してしまいがちですが、それでは改善につながりません。

まずは開封率・返信率・応募率などの指標を分けて捉え、それぞれに対してどこに課題があるのかを明確にすることが重要です。

開封されない=件名や冒頭が響いていない

開封率が低い場合、多くはメッセージの件名や冒頭の数行に問題があります。求職者が受け取るスカウトは複数あり、その中で「開いてみよう」と思ってもらえるかは、最初の印象にかかっています。

件名が一般的すぎる、または冒頭に「どこかで見たことのある内容」が並んでいると、読み手はすぐにスルーしてしまいます。求職者は1日に何通もスカウトメールを受信します。またそのほとんどがテンプレートだとどうでしょうか?同じようなメールを何通も受信することから開封すらしなくなります。

反対に、「プロフィールを拝見して共感しました」「◯◯の経験に感銘を受けました」など、具体的かつ個別性のある一文があると、開封される可能性が高まります。

返信がない=関心に届いていない

開封されても返信がない場合、それは本文の内容が「相手の関心に届いていない」可能性が高いです。つまり、「読んだけど、自分には関係ない」と判断されたということです。

この段階では、スカウト文の中で伝えている内容が、相手の今の悩みや希望と噛み合っているかを見直す必要があります。反応の良かったメッセージと比べてみて、「具体性」「共感の強さ」「読み手に合わせた表現」が足りていない箇所を探していきましょう。

応募がない=求人広告に原因がある

スカウトの返信が増えてきたのに応募につながらない場合、それは求人広告に問題があるケースが多く見られます。メッセージで興味を持ってもらえても、リンク先の求人内容が読み手にとって「想像と違った」「自分には合わない」と映ってしまえば、応募には至りません。

この場合は、スカウト文ではなく、求人ページ自体の構成や表現、掲載している情報を見直す必要があります。特に、条件面ばかりが目立ちすぎていたり、現場のリアルな雰囲気が伝わっていないと、せっかくの関心が離れてしまうのです。

定期的な振り返りが成果を分ける

ダイレクトリクルーティングは、送って終わりではなく、数値をもとに改善を繰り返すことで初めて効果が出てきます。「1通目は読まれたが返信がなかった」「返信は来たが応募に至らなかった」など、段階ごとに課題を分けて見ていくと、次に手を加えるべき箇所が明確になります。

送信履歴をスプレッドシートなどで管理し、「どのメッセージが開封・返信されたか」「どのタイミングで送ったか」といったデータを蓄積していくことで、徐々に自院に合った「勝ちパターン」が見えてきます。

明日からできる改善ポイント
・スカウトの開封率・返信率・応募率を数値で記録し、週1で見直す
・開封率が悪いメッセージと良いメッセージの件名を比較する
・返信率が高かったメッセージの冒頭文をテンプレートに再活用する
・応募が少ないときは、求人広告の見出し・本文・ビジュアルを読み手目線で再点検する
・定期的に「反応のあったスカウト文」をまとめてストックしておく

ダイレクトリクルーティングは「送れば反応がある」仕組みではありません。1人1人の背景に目を向け、関心に寄り添った情報を届けることで、初めて「この医院やステーションに話を聞いてみたい」と感じてもらえる手段になります。大切なのは、送り手の視点ではなく受け手の立場に立ち、メッセージの質を高めていくこと。反応が得られないときは、文章・求人内容・タイミングを丁寧に見直すことが、採用成功への第一歩です。



監修者:権守 泰純(Yasuyoshi Gonmori)

株式会社HOAP代表取締役。2022年に創業し、医療・介護業界に特化した採用支援事業を展開。現在は訪問看護・訪問診療訪問歯科など在宅分野からクリニックなど、業界特化で採用支援事業を展開。


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