「人柄は良さそうだったのに、現場に合わなかった」
「一度は内定を出したけれど、やっぱり断られてしまった」
「応募者の理想と現場のリアルがどうしても噛み合わない」
訪問看護や訪問歯科の採用現場で、このような“すれ違い”は少なくありません。
とくに訪問系の職種では、応募者一人ひとりが現場のチームや利用者と密接に関わることになるため、「人としての相性」や「価値観の近さ」が極めて重要な意味を持ちます。
そうした背景の中で、「カジュアル面談」は当たり前になりつつあります。これは正式な選考ではなく、応募者と事業所がお互いの理解を深めることを目的とした事前接点の一つです。
しかし実際の現場では、「どこまで話していいのか分からない」「面接との違いが曖昧」「時間をかけても見極めに繋がらない」といった声も上がっており、カジュアル面談の運用が形骸化しているケースも見受けられます。
本記事では、訪問看護・訪問歯科におけるカジュアル面談の効果を最大化するために、押さえておきたい5つのポイントを順番に見ていきます。選考の精度を高め、採用のミスマッチを防ぐためのヒントとして、現場での実践にぜひ役立ててください。
応募者の「期待値」を揃える面談にできているか

入職後のギャップは、面談時に埋められる
訪問看護や訪問歯科において、入職後の離職理由でよく聞かれるのが「思っていたのと違った」という声です。その“違い”は、働き方・業務内容・職場の雰囲気など多岐にわたりますが、その多くは面談時にすでに表れていた可能性があります。
「訪問って、自由に働けるイメージがあります」
「クリニック勤務より、ゆとりがあると聞いたのですが」
このような応募者の発言に対し、表面的な相づちや説明だけで終わらせてしまうと、期待値のズレを放置したまま採用に進んでしまうことになります。
“どんな状態を想像しているか”を言語化してもらう
カジュアル面談で意識したいのは、応募者がどんな未来を思い描いているのかを丁寧に聞き出すことです。たとえば以下のような問いかけが有効です。
・今の職場で、どんなことに違和感を感じていますか?
・訪問に転職したら、どんな働き方になっているのが理想ですか?
・1年後「転職して良かった」と思う状態はどんなものですか?
こうした質問を通じて、応募者自身の頭で言語化してもらうことで、面談の中で期待値のすり合わせが進みます。ここで重要なのは、応募者の希望が実際の現場で叶えられるかどうかを判断し、その場で無理に合わせにいかないことです。
応募者の理想と、現場の実態にズレがないか確認する
たとえば、「柔軟な働き方がしたい」という希望があった場合、それが具体的に何を指すのかをすり合わせる必要があります。
「週に何回、何時まで働けるのか」「直行直帰の実際の頻度はどうか」など、応募者と事業所の認識が一致しているかを確認しなければ、後のトラブルにつながります。
期待値を揃えるというのは、単に理想を受け入れることではなく、「その人にとって本当に合う働き方かどうか」をお互いに確かめ合うことです。
Next Action
- 面談冒頭で「転職理由」と「理想の働き方」を必ず聞く時間を取る
- 「こうなっていたら満足」といった状態を具体的に聞き出す
- 職場の実情とのギャップがある場合は、その場で正直に共有する
- 面談後に、応募者が語った希望や期待を書き残しておく
- 次回選考担当と情報を共有し、ズレを引き継がないようにする
「訪問現場で起こるリアル」をあえて伝えているか

「魅力づけ」だけの面談は危うい
カジュアル面談の場では、つい「うちの職場は働きやすいです」「スタッフ同士の雰囲気もいいですよ」といった前向きな情報だけを伝えがちです。しかし、訪問看護・訪問歯科のように業務の裁量が大きく、一人ひとりの判断が求められる現場では、入職後に経験する“事実”を事前に共有しておかないと、早期離職につながるリスクが高まります。
実際、「事務所に戻る時間がない日もあるんですね」「利用者さん宅での判断がこんなに多いとは思っていませんでした」という声が、入職後に出ることもあります。これは、面談時にネガティブに受け取られることを恐れて、「訪問現場のリアル」を意図的に避けていることが原因の一つです。
「伝えづらいこと」こそ、誠実さにつながる
本当に応募者と長く働いていきたいと考えるなら、あえて伝えるべきなのは“きれいごと”ではなく、“実際に起きていること”です。たとえば、以下のようなことも面談では率直に共有すべきです。
・月末の報告業務は、やや立て込みやすい
・訪問中に予期せぬ対応が求められることもある
・チームで支える体制はあるが、最終判断は一人に委ねられることが多い
こうした話を正直に伝えることは、「採用に不利になる」のではなく、「信頼につながる」という認識を持つことが重要です。
応募者に「現場の自分」を想像させる
リアルを伝えることの目的は、怖がらせることではありません。大事なのは、応募者が「自分がその状況になったとき、どう感じるか」「やっていけそうか」を具体的にイメージできるようにすることです。
そのためには、現場スタッフの実体験を交えたエピソードや、過去に似た状況をどう乗り越えたかといった具体事例が有効です。「困った時はこうした」「最初は不安だったけど、今はこう感じている」といった声を交えて伝えることで、応募者が自分の働き方と照らし合わせる手がかりになります。
Next Action
- 面談前に「伝えるべき現場の実態」をあらかじめ洗い出しておく
- 面談の中で「入職後に困るかもしれないこと」を1つ以上伝える
- 実際のエピソードを活用して、話を自分ごとに引き寄せる
- 応募者の反応や表情から、受け止め方を丁寧に読み取る
- 「この内容を聞いて、どう感じましたか?」と一言返してみる
面談なのか説明会なのか、役割が曖昧になっていないか

「話を聞く場」なのか「情報を渡す場」なのか
カジュアル面談という言葉は広まっていますが、その定義や位置づけが現場で共有されていないことも少なくありません。
「一応面談はしたけど、結局は会社説明だけだった」
「業務内容を一通り説明して終わってしまった」
こうしたケースでは、応募者が本当に知りたいことには触れられず、互いに理解が深まらないまま選考が進んでしまいます。
大切なのは、「カジュアル面談=応募者の話を聞く場」であるという認識を明確にすることです。見学や説明会と混同せず、「この面談で何を得たいのか」「応募者から何を聞きたいのか」という意図を持って臨む必要があります。
面談の流れを事前にイメージしておく
「何を話すか」「何を聞き出すか」が曖昧なまま面談に入ってしまうと、結局情報提供だけで終わってしまうことが多くなります。
そこで、事前に面談の流れを3ステップ程度に分けておくことが効果的です。
1. 応募者の転職理由・背景を聞く
2. 価値観や働き方の希望を深掘りする
3. 現場のリアルを共有し、フィット感を確認する
こうした準備があるだけで、面談が単なる「説明会」ではなく、「対話の場」として機能するようになります。
Next Action
- カジュアル面談と見学・面接の違いをチームで確認しておく
- 面談の前に、話す項目と聞きたい内容を3つずつメモしておく
- 一方的な説明が続いていないか、面談中に意識して振り返る
- 応募者に「この場で聞きたいこと」を冒頭で確認する
- 面談後に、自己評価として「どれだけ話を聞けたか」を記録する
面談後に「お互いの印象」を見える化しているか

「いい人そうだった」だけで終わっていないか
カジュアル面談を実施した後、「なんとなく雰囲気は良かった」という印象だけで終わってしまうことがあります。しかし、それだけでは次の選考ステップに進めたとき、判断材料として弱く、面接や見学担当者との情報共有も不十分になりがちです。
また、面談に同席したスタッフの感覚だけで「この人、合いそう」と結論づけてしまうと、採用後に「実は違った」と感じる場面が出てくることにもつながります。
主観ではなく「印象の根拠」を残す
たとえば、以下のような観点で印象を振り返ることで、より客観性のある記録になります。
・どんな価値観や姿勢が見えたか?
・現場で大切にしている考え方とどの程度一致していたか?
・面談中にこちらの話への反応はどうだったか?
こうした項目をもとに面談後のメモを残しておくと、他の選考担当者とスムーズに情報を共有できるだけでなく、自分自身の判断基準の精度も上がっていきます。
応募者にも「印象」をフィードバックする
また、応募者にとっても「この会社は自分のことをどう見てくれたのか」というフィードバックは重要です。
たとえば面談後、
といったコメントを伝えるだけで、応募者の安心感や志望度は大きく変わります。
一方通行の面談ではなく、「お互いの感じ方」をすり合わせる姿勢が、信頼関係を築く第一歩となります。
Next Action
- 面談直後に「印象メモ」を残す時間を確保する
- 印象を「〇〇だった」ではなく、「なぜそう感じたか」まで記録する
- 評価項目をテンプレート化して、振り返りの質を統一する
- 面談後の共有会で、他のスタッフと印象をすり合わせる
- 応募者にも感想を一言フィードバックしてみる
採用担当者と現場が「目的共有」できているか

「なぜこの面談をやるのか」がチームで共有されているか
カジュアル面談を実施する際、採用担当と現場スタッフの間で「面談の目的」が明確に共有されていないケースがあります。
「雰囲気だけ見てもらえればいいんですよね?」
「採用担当から来る人って、もう採る前提なんですか?」
こうしたズレがあるまま面談に臨むと、応募者にとっては何を意図した時間なのかが見えづらくなり、結果的に温度感の低い面談となってしまう可能性があります。
面談の目的は、「選考」ではなく「対話による相互理解」であるという認識を、関わるスタッフ全員が持っておく必要があります。
誰が・どのような意図で同席するのかを事前に決めておく
現場スタッフが面談に同席する場合、その役割を明確にすることも重要です。
単なる顔見せではなく、「現場のリアルを伝える係」「仕事の流れを具体的に説明する係」など、参加する意義を明確にすることで、面談自体の質が高まります。
また、現場スタッフにとっても、「何を聞けばいいか分からない」とならないように、事前に確認事項や質問項目を共有しておくと安心です。
面談後の感想を「共有財産」として扱う
面談が終わった後、担当者ごとの印象がバラバラに管理されていると、採用活動の一貫性が失われます。
「話しやすそうだった」「雰囲気は良かった」などの主観的な感想も大切ですが、それらをどのように次の選考や関係者に引き継ぐかが重要です。
面談に関わるメンバーが集まって「今回の応募者についてどう感じたか」を共有し合うことで、採用判断の軸がぶれず、一貫したコミュニケーションが可能になります。
Next Action
- カジュアル面談の「目的」「役割分担」をチーム内で再確認する
- 面談前に、参加者に事前資料や質問項目を共有する
- 同席者には「現場の声を伝える係」など明確な役割を設定する
- 面談後は、関係者で簡単な振り返りの時間を持つ
- 面談記録を全員が見られる場所に保存し、次の選考へ活用する
カジュアル面談は、単なる「第一接点」ではなく、採用の成否を左右する重要な場面です。訪問看護・訪問歯科のように、現場との相性が成果に直結する職種では、面談の質こそが採用の質に直結します。「話してみてよかった」「この職場なら続けられそう」と応募者に思ってもらえるよう、今回紹介した5つの視点を現場での対話に取り入れてみてください。形式ではなく、実のある面談が、次の仲間との出会いをつくります。

