訪問看護の採用課題とは?現場から考える解決の糸口

採用に関して考える看護師

訪問看護の現場では、「求人を出しても応募がない」「やっと採用できてもすぐ辞めてしまう」といった声が後を絶ちません。看護師不足は医療業界全体の課題ですが、その中でも訪問看護は特に採用が難しいとされてきました。病院やクリニックと比べて業務内容が想像しづらく、単独で利用者宅を訪問することへの不安が大きいからです。

さらに、応募があっても「思っていた働き方と違った」と感じて退職してしまうケースも少なくありません。たとえば「病棟よりも楽だと思っていたが、実際は一人で判断する場面が多く緊張感が強い」といった声や、「家庭との両立を期待して入職したが、オンコール対応が想像以上に負担だった」というギャップが典型例です。このように、制度や待遇だけでは解決できない“期待と現実のずれ”が離職を招いています。

では、なぜこうした課題が繰り返されるのでしょうか。求人票や説明会では制度や給与条件ばかりが強調されがちで、現場のリアルな体験や働きがいが十分に伝わっていないことが背景にあります。実際に働くスタッフの声を通じて「訪問看護ならではのやりがい」「失敗を乗り越えた経験」を示すことができれば、応募者はより具体的に働く姿を想像できます。

本記事では、訪問看護の採用課題を5つの視点から掘り下げ、解決の糸口を探ります。まずは「なぜ訪問看護は採用が難しいのか」という根本的な問いから出発し、その背景と改善の方向性を順に見ていきます。

目次

なぜ「訪問看護は採用が難しい」と言われるのか?

病院と比べて応募が集まりにくい理由

訪問看護の採用が難しいとされる大きな背景のひとつは、病院やクリニックと比べて応募が集まりにくいことです。看護師にとって就職先の選択肢は幅広く、一般的に病院勤務のほうが認知度が高く安心感を持たれやすい傾向があります。特に若手看護師にとっては「看護師=病棟での勤務」というイメージが根強く、訪問看護は経験豊富な人が選ぶ職場という印象を持たれがちです。

また、求人票の時点で仕事内容が具体的に伝わりにくいことも、応募を妨げる要因です。「患者宅に訪問して看護を行う」と書かれていても、どのような判断が求められるのか、どのくらいのサポート体制があるのかといった細部が伝わらなければ、候補者は不安を抱きます。結果として「まずは病院で経験を積んでから」と考える人が多く、訪問看護を最初の選択肢とする人は少数派になります。

さらに、世の中全体の看護師不足が影響しています。看護師は全国的に売り手市場であり、候補者側からすれば病院・クリニック・施設など複数の選択肢の中から条件の良いところを選べる状況です。そのなかで訪問看護が選ばれるためには、「やりがい」「働きやすさ」「学びの深さ」といった他にはない魅力をきちんと伝える必要があります。

こうした背景を踏まえると、訪問看護における採用の難しさは単なる認知度不足ではなく、候補者が働くイメージを持ちにくいことに起因しているといえます。次の視点では、さらに内面的なハードルについて考えてみましょう。

単独訪問に伴う心理的なハードル

訪問看護の大きな特徴である「単独訪問」は、採用を難しくしている要因のひとつです。病棟勤務であれば常に同僚や医師が近くにいて、困ったときにすぐ相談できる環境があります。一方、訪問看護では看護師が一人で利用者宅を訪れる場面が基本となり、判断を自分で下さなければならない状況が頻繁に発生します。この責任感の重さが候補者にとって心理的な負担になりやすいのです。

特に「自分の判断で急変時に対応できるのだろうか」「家族とのコミュニケーションをどう取ればよいのか」という不安は、経験の浅い看護師にとって大きな壁となります。病院での経験が十分であっても、在宅という環境特有の要素が絡むことで「本当に自分にできるのか」という躊躇につながります。

また、訪問先では利用者の生活背景や家族関係など、医療以外の要素も考慮する必要があります。たとえば経済的に困窮している家庭や、介護する家族が疲弊している状況に直面することもあり、看護師自身の人間的な対応力が試されます。こうした総合的な力が求められることも、候補者に「ハードルが高い」と思わせてしまう要因です。

ただし、この「単独で判断する力」こそが訪問看護の専門性を高める重要な要素でもあります。適切に教育やフォロー体制を整えれば、候補者にとっては大きな成長の場となり得るのです。採用を成功させるためには、この不安をどう安心に変えるかが鍵になります。

労働条件への誤解と実際のギャップ

訪問看護に応募が集まりにくいもうひとつの理由は、労働条件に対する誤解や、入職後に感じるギャップです。多くの看護師が「病院勤務は忙しいから訪問のほうが楽そう」といったイメージを持って応募してくることがあります。しかし実際には、オンコール対応や移動の多さ、記録業務の負担など、別の形での大変さが存在します。

たとえば「家庭と両立できると思ったが、夜間や休日の呼び出しで想像以上に疲れた」と語る人や、「利用者宅で予期せぬ事態に遭遇し、一人で対応するプレッシャーが大きかった」という声は少なくありません。このように、仕事内容のリアルが十分に伝わっていないまま採用されることで、早期離職につながってしまうのです。

また、待遇面に関しても誤解が生じやすい分野です。病院に比べて給与が高いと紹介されることもありますが、実際には事業所ごとに差が大きく、必ずしも全ての訪問看護ステーションが好条件とは限りません。給与だけを見て応募してきた人が、「実際には想定していたほどではなかった」と感じて辞めてしまうケースもあります。

このように、労働条件に関する誤解は採用の入り口を狭めるだけでなく、入職後のミスマッチを生み出しやすい点でも大きな課題です。採用の段階で正確かつ具体的に伝える工夫が求められます。次に、採用活動の「情報発信」の側面に焦点を移して考えていきましょう。

採用広報の不足が招く不透明さ

訪問看護の採用が難しいと言われるもうひとつの理由は、採用広報が不足していることです。求人票では制度や給与、勤務時間といった基本条件は伝えられるものの、「実際に働く姿」が具体的に描かれていないケースが目立ちます。そのため、候補者は訪問看護の仕事を想像しきれず、不安を抱いたまま応募を見送ってしまいます。

実際には、訪問看護の現場には多様なやりがいや感動の瞬間があります。利用者や家族との信頼関係が築けたとき、病状の安定に寄与できたとき、在宅で最期を迎える支援ができたときなど、病棟勤務では得られにくい達成感を味わえる場面も少なくありません。しかし、こうした魅力が十分に外部に伝わっていないのです。

また、広報活動が限定的であることから、「訪問看護は何となく大変そう」という漠然とした印象だけが残ってしまうこともあります。特にSNSやホームページでの発信が弱い事業所では、候補者が事前に情報を得られず、安心して応募に踏み切れない状況が生じています。

この不透明さを解消するためには、単なる制度紹介ではなく、現場スタッフの声や具体的なエピソードを積極的に発信することが不可欠です。それによって候補者は、自分が働く姿をより鮮明に想像できるようになり、応募につながる可能性が高まります。

定着しないスタッフの共通点は何か?

入職前のイメージと現実のギャップ

訪問看護の離職理由で最も多いのは、入職前に抱いていたイメージと現実のギャップです。応募者の多くは、

「病棟に比べて時間に余裕がありそう」
「患者さん一人ひとりとゆっくり関われそう」

といった期待を持って訪問看護を選びます。しかし、実際に働いてみると移動時間や記録業務、オンコール対応などで想像以上に忙しく、思っていたよりも「自由がない」と感じてしまうのです。

たとえば「家庭と両立しやすいと思ったのに、緊急訪問で子どもの迎えに間に合わなかった」「病棟より落ち着いて働けると期待したが、利用者宅では一人で判断する場面が多く緊張感が強い」といった声が挙げられます。これは求人票や説明会で仕事内容の具体的なイメージを十分に伝えきれていないことが原因です。

さらに、訪問看護は利用者ごとに病状や生活環境が異なり、対応が多岐にわたります。そのため、マニュアル通りに進められる病棟勤務とは異なり、応用力や柔軟性が必要です。この点を理解せずに入職した人ほど「思っていた仕事と違う」と感じやすく、短期間で離職してしまう傾向があります。

つまり、定着しないスタッフには「イメージ先行で入職している」という共通点があり、採用の段階で現実を具体的に伝えることが定着率を高める第一歩だといえます。

孤独感とサポート不足による不安

訪問看護の特徴である「一人での訪問」は、経験を積んだスタッフにとってはやりがいにつながりますが、入職したばかりの人にとっては大きな孤独感や不安の要因になります。特に病棟勤務では常に同僚や医師がそばにいた環境から移ってきた人にとって、利用者宅で自分だけが頼りという状況は心理的負担が大きいのです。

具体的には「訪問中に急変が起きたらどうすればいいのか」「利用者や家族の質問に即答できなかったら信頼を失うのではないか」といった心配が絶えません。こうした不安を解消するには、教育体制や相談できる仕組みが重要になりますが、体制が十分でない事業所も少なくありません。

また、オンコール対応に関しても、サポートが弱いと「一人で背負わされている」という感覚が強まり、疲弊してしまいます。本来であれば管理者や先輩がフォローしながら経験を積ませるべきところを、最初から責任を丸ごと任せてしまうケースもあり、それが離職につながる大きな要因となります。

定着しないスタッフの多くは、このように「孤独感を抱えたまま働いている」という共通点があります。安心して学べる環境をつくれるかどうかが、定着率を左右する鍵だといえるでしょう。

チームとの関わり不足と疎外感

訪問看護は個別訪問が基本であるため、同僚との交流時間が少なくなりがちです。病棟勤務では日々の業務を通じて自然に仲間意識が生まれますが、訪問看護ではそれが希薄になり、結果として「チームの一員」という感覚を持ちにくくなります。

特に新人スタッフにとっては、帰社後に報告や記録を行っても、忙しい時間帯に先輩が対応できず相談できないままになってしまうことがあります。その結果、「自分だけが取り残されている」という疎外感を抱きやすくなります。こうした孤立感は、やる気の低下や早期退職につながる危険因子です。

また、訪問看護の事業所によってはミーティングや振り返りの時間が十分に確保されていない場合もあります。そうなると、現場での経験や悩みを共有する場がなく、スタッフ同士の関係が浅くなってしまいます。特に若手や中途採用者にとっては、「誰に頼ればいいのか分からない」という不安が募りやすくなります。

定着しないスタッフの共通点として、「仲間とのつながりが感じられない」という要素は無視できません。採用だけでなく、入職後にどうチームに巻き込んでいくかが重要な課題となります。

成長実感の欠如とキャリア不安

最後に挙げられる共通点は、成長実感の欠如です。訪問看護は一人で判断する場面が多く、自己の裁量が広い一方で、自分がどれだけ成長しているかを感じにくい環境でもあります。特に評価制度が整っていない事業所では、日々の業務が「ただ回しているだけ」と感じられてしまい、キャリアの展望が描けなくなります。

「病棟では先輩から学ぶ機会が多かったのに、訪問に来てからは誰にも指摘されず、自分が正しくできているのか分からない」

といった声は典型例です。フィードバックが不足していると、自己流で業務をこなすことになり、学びが停滞してしまいます。その結果、「成長できていない」と感じて退職を考える人が出てきます。

また、訪問看護は専門性が高い一方で、キャリアパスのイメージが不明確なことも離職を招く要因です。「このまま訪問看護を続けてどんなキャリアになるのか」「管理者以外にどんな道があるのか」が分からなければ、将来に不安を抱くのは当然です。

定着しないスタッフの多くは、「将来像を描けないまま働いている」という共通点を持っています。したがって、教育や評価の仕組みを整え、キャリアの展望を示すことが重要になります。

求人票や説明で伝えきれていないポイントとは?

悩む看護師

制度や待遇の羅列に終始している問題

訪問看護の求人票を見てみると、多くの場合「給与」「勤務時間」「休日」「福利厚生」といった条件面の情報が中心になっています。もちろん、働くうえで条件が明示されていることは大前提ですが、それだけでは応募者の心を動かすことはできません。特に訪問看護は業務内容が想像しにくいため、制度や待遇の羅列だけでは「ここで働く自分」をイメージできないのです。

応募者にとって重要なのは「制度そのもの」ではなく、「制度がどのように役立つのか」という具体的な体験です。たとえば「育児短時間勤務制度あり」と書かれているだけでは、どのように活用できるのか分かりません。しかし「子どもの急な発熱時に制度を利用して早退し、家族と安心して過ごせた」といったリアルなエピソードが添えられていれば、応募者は制度を自分の生活に置き換えて考えやすくなります。

現状の求人票が条件の列挙に偏っている限り、応募者にとっては「どこも似たような職場」と映ってしまいます。訪問看護の採用を成功させるには、数字や制度を並べるだけでなく、それが実際にスタッフの生活や働き方にどう影響しているのかを伝えることが不可欠です。

求職者が知りたいのは「現場の1日」

求人票や説明会で見落とされがちなポイントが、現場スタッフの1日の流れです。応募者は「訪問看護がどのように進むのか」を知りたいのに、多くの求人ではその部分が曖昧にされています。

たとえば「9:00 出社、9:30 訪問開始、12:00 記録、13:00 訪問…」といった形でタイムラインを示すだけでも、応募者にとっては大きな安心につながります。さらに、実際の訪問でどんな判断が必要になるのか、どんなサポートがあるのかまで具体的に記載すれば、候補者は自分の働く姿をイメージしやすくなります。

一方で、そのような情報がない場合、候補者は「どのくらいの訪問件数があるのか」「移動はどうしているのか」「報告や相談はどのタイミングでできるのか」といった基本的な疑問を抱えたまま応募を検討することになります。その不透明さが、不安感につながり、応募の決断を妨げてしまうのです。

実際に訪問看護を経験したスタッフの声を引用し、「午前は糖尿病管理の利用者宅を訪問し、午後は終末期ケアに入った。1日の中でまったく違う看護が経験できる」といったエピソードを加えるだけで、求人の説得力は格段に高まります。

成長のチャンスや教育体制が伝わっていない

訪問看護は専門性が高く、在宅医療に関する幅広い知識や判断力を身につけられる分野です。しかし、その成長のチャンスが求人票や説明では十分に伝えられていないことが多いのが現状です。

「教育制度あり」「研修充実」といった言葉だけでは、応募者はどのように学べるのかを具体的に想像できません。

たとえば

「入職から3か月間は必ず先輩が同行し、訪問後には30分の振り返りを行う」
「年2回、外部研修に参加でき、費用は全額会社負担」

といった情報があるだけで、学びのイメージは一気に鮮明になります。

また、訪問看護におけるキャリアパスのイメージも伝わりにくい部分です。「管理者になる」以外の選択肢が示されていない場合、応募者は将来像を描きづらくなります。しかし「認定看護師を目指す」「教育担当として新人を支える」といった多様なキャリアパスがあることを明示できれば、長期的に働く魅力を伝えられます。

求人票や説明会で成長や学びの道筋を具体的に描けていないことは、応募者にとって「ここで働く価値が見えにくい」という印象につながります。採用を成功させるためには、教育や成長の具体像をしっかりと示すことが欠かせません。

ミスマッチを避けるための「リアルさ」の欠如

訪問看護の求人票や説明で特に不足しているのが、ミスマッチを防ぐための「リアルな情報」です。事業所によっては「働きやすさ」「安心のサポート体制」といった抽象的な表現にとどまり、実際に働く中での難しさや課題が示されていません。

もちろん、採用活動では良い面を強調したいという気持ちは理解できます。しかし、ポジティブな情報だけを伝えると、入職後に現実との落差に直面したスタッフが「聞いていた話と違う」と感じ、早期離職につながりかねません。

むしろ「訪問先で急変が起こることもあり、最初は緊張します。ただ、そのときは必ず管理者や医師にすぐ連絡できる仕組みがある」といったように、課題と支援策をセットで伝えることのほうが信頼につながります。

また、「こんな人は合わないかもしれない」といったメッセージも有効です。「マイナス思考が強すぎて柔軟に動けない人は難しいかもしれない」と正直に伝えることで、逆に「自分はここでやっていけそう」と判断できる応募者を引き寄せられます。

求人票や説明で「リアルさ」を意識することは、応募者に安心感を与えるだけでなく、結果的に定着率を高める効果があります。

訪問看護の魅力を伝える方法をどう変えるべきか?

悩む看護師

制度紹介から「体験ストーリー」へ転換する

訪問看護の採用広報において、よく見られるのが「制度の羅列」に終始してしまうパターンです。たとえば「教育制度あり」「子育て支援あり」といった情報は伝わるものの、それがどのように現場で役立っているのかが語られていません。応募者にとって知りたいのは、制度の存在そのものではなく、「その制度を活用したときに得られる実感」です。

具体例を挙げると、

「子どもが急に熱を出した際、直行直帰制度を利用してすぐに迎えに行けた」
「育休から復帰したスタッフが管理者としてキャリアを築いている」

といった体験談です。こうしたリアルなストーリーがあれば、応募者は自分の生活に置き換えてイメージでき、「ここなら働けそうだ」と前向きに感じられます。

このように「制度紹介」から「体験ストーリー」へと切り替えることは、訪問看護の魅力を伝えるうえで大きな転換点となります。単なる条件説明から脱却し、スタッフの実体験をベースにした語り口を取り入れることで、応募者の共感を得やすくなります。

「共感」と「安心感」を軸にした発信

訪問看護は、病棟勤務と異なり一人で判断する場面が多く、候補者にとって不安を感じやすい職種です。そのため、採用広報では「共感」と「安心感」を軸に発信することが欠かせません。

共感の切り口としては、「最初は誰でも緊張する」「私も最初は失敗した」というスタッフの声をそのまま伝える方法が効果的です。失敗や戸惑いを隠さずに共有することで、応募者は「自分も同じように成長できるかもしれない」と希望を持つことができます。

安心感の提供では、フォロー体制や教育方法をエピソードとセットで示すことが重要です。「初めての訪問は必ず先輩が同行する」「困ったときは管理者にすぐ電話できる」といった具体的な仕組みを伝えれば、応募者は不安を和らげられます。

この二つの視点を取り入れることで、応募者は訪問看護を「怖い職場」ではなく「支え合いながら成長できる場」として認識できるようになります。

スタッフの人柄や価値観を前面に出す

訪問看護の魅力は、制度や待遇だけでは測れません。現場で働くスタッフの人柄や価値観が、応募者にとっては大きな判断材料になります。

「趣味はウクレレで、利用者さんと演奏するのが楽しみ」
「仕事終わりに子どもと一緒に散歩する時間が癒し」

といったスタッフ紹介は、一見採用と直接関係ないように見えますが、実際には応募者に「この職場なら人間味のある関わりができそう」と感じさせます。

また、「うちの職場はこういう人には合わないかもしれない」と正直に伝えることも効果的です。「マイナス面を前向きに変えられる人が向いている」といったメッセージは、応募者にリアルさと信頼感を与え、結果的に定着しやすい人材を引き寄せます。

採用広報では、スタッフ一人ひとりの声を「看護観」「働くうえで大事にしていること」といった形で可視化することが、訪問看護の魅力を伝えるうえで重要です。

利用者との関係性から伝わるやりがい

訪問看護の仕事には、病棟では得られないやりがいがあります。それは、利用者や家族と長期にわたって関係を築ける点です。採用広報においては、このやりがいをエピソードで示すことが強い訴求になります。

たとえば「最期の時を自宅で迎えたいと希望する利用者に寄り添い、家族と一緒に看取ることができた」「長く糖尿病管理を続けていた利用者が数値改善し、笑顔で『ありがとう』と伝えてくれた」といった体験は、訪問看護ならではの価値を端的に伝えます。

応募者は「自分もその場面に立ち会いたい」と感じ、単なる条件以上に「やりがい」で動かされるのです。こうした事例を積極的に発信することで、訪問看護の仕事に魅力を感じる人材を増やすことができます。

やりがいの発信は、同時に「働き続けたい」というモチベーションにつながり、採用だけでなく定着にも寄与します。魅力を伝える方法を変える際には、この「利用者との関係性」を軸に据えることが効果的です。

明日から取り組める採用改善の第一歩

見学やカジュアル面談の導線をつくる

訪問看護に興味を持っている人でも、「いきなり応募するのはハードルが高い」と感じるケースは多くあります。そのため、まずは気軽に職場を体験できる導線を整えることが、採用改善の最初の一歩になります。

具体的には「1日職場体験」「半日同行見学」「オンライン説明会」といった軽い接点を用意することです。応募前に現場を見たり、スタッフと話したりできることで、候補者は安心して次のステップに進めます。たとえば「見学に来たとき、スタッフが温かく迎えてくれたので不安がなくなり、その場で応募を決めた」というケースは少なくありません。

また、カジュアル面談を設定し、選考ではなく「質問の場」として提供するのも効果的です。

「オンコールはどのくらいあるのか」
「記録業務はどのように進めているのか」

といったリアルな疑問に答えることで、候補者は自分の生活に合うかどうかを具体的に判断できます。

応募をゴールにするのではなく、「気軽に接点を持つ場」を段階的に用意することが、採用改善の最短ルートです。

スタッフ発信を日常化する

採用広報を強化するうえで、もっとも効果的かつ実践しやすいのが「スタッフの声」を日常的に発信することです。求人票だけでは伝えきれない現場の雰囲気や働き方を、SNSやブログを通じて候補者に届けることができます。

たとえばInstagramで「1日の流れ」や「訪問先での小さな出来事」を写真や短文で紹介するだけでも、候補者にとっては大きな参考情報となります。「子どもの迎えに間に合った」「失敗して落ち込んだが先輩が励ましてくれた」といったリアルなエピソードは、応募者に共感と安心を与えます。

さらに、スタッフが自分の言葉で語る「なぜ訪問看護を選んだのか」「やりがいを感じた瞬間」は、制度説明以上に強い訴求力を持ちます。発信は完璧である必要はなく、むしろ等身大であることが信頼感につながります。

日常の中でスタッフ発信を習慣化することは、すぐに始められる採用改善であり、応募者との心理的距離を縮める効果的な手段です。

求人票の書き方を変える

明日からできる改善のひとつは、求人票の見直しです。制度や待遇を羅列するだけでなく、応募者が「ここで働く自分」を想像できるような内容に変えることが重要です。

たとえば「年間休日120日」と記載するだけではなく、「子どもの学校行事に参加できるスタッフが多い」と具体例を添える。「研修あり」とするのではなく、「入職後3か月は必ず先輩が同行し、訪問後に30分の振り返りを行う」と詳細を示す。こうした工夫だけで、求人票の伝わり方は大きく変わります。

また、「この職場に合わない人」についてもあえて記載することが有効です。「一人で判断する場面に不安を感じやすい人は難しいかもしれません」と正直に伝えることで、ミスマッチを防ぎ、定着率を高めることができます。

求人票は採用活動の入り口であり、少しの工夫で応募者の質を変えられるポイントです。書き方を変えるだけで、明日から採用活動が前進します。

小さな改善を積み重ねる姿勢を持つ

訪問看護の採用課題は一朝一夕で解決できるものではありません。しかし「明日からできる小さな改善」を積み重ねることが、長期的な成果につながります。たとえば

「月に1回はスタッフ座談会を開催して、その様子をSNSで発信する」
「応募者からの問い合わせには24時間以内に返答する」
「説明会の最後に必ず『不安に思っていることはありますか?』と聞く」

など、すぐに実行できる工夫は数多くあります。

重要なのは、大きな仕組みを一気に変えることではなく、候補者の目線に立った細やかな取り組みを継続することです。その積み重ねが「応募したい」「ここで働きたい」と思える職場づくりにつながります。

採用改善はゴールではなくプロセスです。小さな一歩を継続することが、最終的に人材が集まり、定着する組織をつくる基盤になります。

訪問看護の採用課題は、応募が集まりにくいことや定着率の低さに代表されますが、その背景には「仕事のイメージ不足」や「現実とのギャップ」があります。制度や待遇の説明だけでは不十分で、現場の体験やスタッフの声を通じて共感と安心感を伝えることが欠かせません。また、求人票や説明の工夫、見学導線や日常的な情報発信といった小さな取り組みを積み重ねることで、採用の成果は着実に変わっていきます。訪問看護が持つ本来の魅力を、いかにリアルに届けられるかが今後の鍵となるでしょう。



監修者:権守 泰純(Yasuyoshi Gonmori)

株式会社HOAP代表取締役。2022年に創業し、医療・介護・歯科業界に特化した採用支援事業を展開。訪問看護・訪問診療クリニック訪問歯科を中心にサービスを展開中。


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