訪問看護におけるマネージャーとリーダーの違いとは?現場を導く存在の在り方

考える訪問看護の管理者

訪問看護の現場では「スタッフがなかなか定着しない」「新人が不安を抱えて早期に辞めてしまう」といった声がしばしば聞かれます。その背景には、訪問という働き方の特性があります。病院や施設と異なり、看護師が一人で利用者宅を訪問するため、孤独感や判断の難しさを抱える場面が少なくありません。そのとき、そばで見守ってくれる同僚がいない状況は、経験の浅いスタッフにとって大きな心理的負担となります。

こうした環境だからこそ、リーダーの存在が大きな意味を持ちます。単に業務を管理する立場としてではなく、現場全体の方向性を示し、安心して働ける雰囲気をつくり、成長を支える存在として求められるのです。リーダーが「チームの結び目」として機能するかどうかで、スタッフの定着率やケアの質は大きく変わっていきます。

しかし一方で、「リーダーの役割」と聞くと管理業務やマネジメントを思い浮かべる人も多いかもしれません。もちろんそれも重要ですが、訪問看護におけるリーダーはもっと広い意味を持っています。それは、ビジョンを現場に伝え、人材を育て、信頼関係をつくることです。こうした在り方は、職場文化そのものを形づくり、組織の持続性を左右します。

本記事では、訪問看護におけるリーダーの役割を多角的に捉え、現場を支えるために必要な資質や具体的な行動のヒントを提示します。

目次

なぜ訪問看護にリーダーが不可欠なのか

孤独を抱えやすい訪問という働き方

訪問看護の大きな特徴は、看護師が一人で利用者の自宅に向かう点にあります。病院や施設のように周囲に医師や仲間がいる環境とは異なり、その場で判断を求められるケースが少なくありません。

特に在宅医療は利用者の生活背景や家族状況も複雑で、マニュアル通りにいかないことが多々あります。経験が浅いスタッフほど「この判断は正しいのか」「誰かに相談したい」という気持ちが募りやすく、孤独感を抱きやすいのです。こうしたときに、安心して声をかけられるリーダーの存在は不可欠です。日々の振り返りや何気ない相談の中で「一人ではない」と感じられることが、長く続けるための大きな支えとなります。

チームを結びつける接点としての役割

訪問という業務は個別対応が中心になるため、スタッフ同士が顔を合わせる時間は意外と限られています。その結果、情報の共有が不足したり、互いの考え方を理解する機会が減ったりしがちです。こうした状況を放置すると、チームとしての一体感が薄れ、「自分だけで仕事をしている」という閉塞感を生む要因になります。

そこで重要になるのが、リーダーによる橋渡しの役割です。訪問で得た気づきを共有の場につなぎ、スタッフ同士の関係を結び直す役割を果たすことで、チームは「点の活動」から「線の活動」へと変わっていきます。リーダーがその結節点となることで、スタッフ一人ひとりの力を最大限に引き出せる環境が整うのです。

不安を受け止める心理的安全性の担保

新人や中途入職者は、訪問看護特有の責任の重さに直面したとき、不安を誰にどう伝えればよいか迷うことがあります。例えば「利用者家族との関係づくりがうまくいかない」「病状の変化に気づいたが、次の対応に自信がない」といった悩みを抱えても、話せる場がなければそのまま不安をため込んでしまいます。

リーダーが積極的に声をかけたり、定期的に短時間の面談を設けたりすることで、心理的安全性が担保されます。この「安心して話せる場」があるかどうかが、離職防止や専門職としての成長に直結します。リーダーは単なる管理者ではなく、スタッフの気持ちを受け止める存在であることが求められます。

離職やサービス低下を防ぐための要となる

リーダーが不在、あるいは機能していない場合、現場にはさまざまな悪循環が生まれます。情報共有が不足し、同じミスが繰り返される。新人が孤立し、短期間で退職する。残ったスタッフは負担が増え、不満が蓄積する。こうしたサイクルは、やがて利用者に提供されるサービスの質にも影響します。

反対に、リーダーがしっかりと機能していれば、スタッフの小さな不安を早期にキャッチし、成長につなげることができます。結果として定着率が高まり、事業所全体の安定運営にも寄与します。訪問看護におけるリーダーは「いなくても回る存在」ではなく、「いなければ成り立たない存在」と言えるのです。

訪問看護リーダーに求められる基本的な役割

ビジョンや方向性を示す役割

訪問看護の現場では、日々の業務に追われて「なぜこの仕事をしているのか」という原点が見えにくくなることがあります。特に新人や経験の浅いスタッフにとっては、利用者宅で直面する課題に精一杯で、長期的な目標を描く余裕がない場合も多いです。ここでリーダーが果たすべき役割は、現場の動きを一つ上の視点から捉え、「私たちはどこに向かっているのか」を言語化することです。

例えば「地域で最後まで安心して暮らせる仕組みを支えるのが私たちの役割」といったビジョンを繰り返し共有することで、スタッフは自分の仕事を大きな意味の中で位置づけることができます。方向性を示す力は、組織に安定感と一体感を生み出します。

スタッフを育成し支える役割

訪問看護では、一人での判断が求められる分、基礎的な知識や応用力が欠かせません。しかし新人や中途採用者が最初からすべてをこなせるわけではなく、現場で試行錯誤しながら力をつけていく必要があります。その過程でリーダーが担うべきは

「ただ教える人」

ではなく

「一緒に考える伴走者」

です。失敗を責めるのではなく、次にどうすれば良いかを一緒に整理し、自分なりの答えを導けるよう支援することが重要です。

また、スタッフの強みを見つけて伸ばす視点も欠かせません。誰がどんな利用者に向いているのか、どの場面で力を発揮できるのかを把握し、成長の機会を提供することが、チーム全体の力を底上げします。

多職種や地域との橋渡し役

訪問看護は看護師だけで成り立つ仕事ではなく、医師、ケアマネジャー、リハビリ職、ヘルパーなど多職種との連携が不可欠です。しかし、それぞれの立場や考え方には違いがあり、ときには認識のずれや優先順位の衝突も生じます。

こうした場面でリーダーが果たすべきは、相互の意見を整理し、共通の目標に向かって調整することです。スタッフが安心して利用者のケアに専念できるよう、外部との橋渡しを担う存在が必要なのです。地域における「顔」としての信頼を築くことは、事業所全体の評価にも直結します。リーダーが多職種間の対話を円滑に進められるかどうかで、チームの働きやすさも大きく変わります。

緊急時や困難場面での判断と支援

訪問看護では、予定外の事態に直面することが少なくありません。急な容体変化や家族からの強い要望、在宅環境の制約など、瞬時に対応を求められる場面もあります。スタッフ一人では判断に迷う状況でも、リーダーが後ろ盾として存在すれば安心して動くことができます。

電話での即時対応や訪問への同行など、現場での具体的な支援はもちろんですが、「困ったときは必ず頼れる人がいる」という信頼感自体が、スタッフの精神的な支えになります。

さらに、事後には状況を振り返り、チーム全体で学びに変えるプロセスを設けることが、次の成長につながります。リーダーは単なる判断者ではなく、困難を成長の機会に変える存在といえます。

リーダー不在が招く現場の課題

情報共有不足によるリスクの増大

訪問看護は一人で動く時間が長いため、事業所に戻ったときの情報共有が極めて重要です。しかしリーダーが不在で、共有の場や方法を仕組み化できていないと、重要な情報が抜け落ちやすくなります。例えば

「薬の変更があったことを別のスタッフが知らず、誤った説明をしてしまう」
「利用者の家族からの要望が伝わらず、不信感を抱かれる」

といった事態は、実際に起こり得る問題です。こうした小さな齟齬の積み重ねは、やがて信頼低下や事故につながります。リーダーは、報告・連絡・相談を促し、情報が全員に行き届くように整える役割を担うため、不在の影響は大きいといえます。

新人の孤立と早期離職の加速

新人や訪問未経験の看護師にとって、最初の数か月は特に負担の大きい時期です。病院勤務の経験はあっても、在宅での判断や利用者家族とのやりとりはまったく性質が異なるため、慣れるまでに不安がつきまといます。本来であればリーダーがそばにいて相談に乗ったり、訪問後に振り返りを行ったりすることで安心感を与えられるはずです。

しかしリーダーが機能していない場合、こうしたフォローが途絶え、孤立感が強まります。その結果、「自分には向いていない」と感じ、短期間で離職してしまうケースも少なくありません。新人が辞めればまた採用・教育の負担が発生し、組織全体の負担はさらに増していきます。

チーム全体の一体感が崩れる

訪問看護は個別活動が多い分、チームとしてのつながりを意識的に育む必要があります。ところがリーダーがいないと、各スタッフが自分のやり方で動き、方向性がバラバラになりがちです。「あの人はこう対応しているのに、私は違うやり方をしている」という不一致が続くと、利用者や家族にも混乱を与えます。さらに、スタッフ同士が互いの取り組みを理解しないまま業務が進むため、「一緒に働いている」という感覚が薄れてしまいます。

リーダーはこうしたばらつきを調整し、共通の基準や価値観を示す存在ですが、不在であればチームのまとまりは失われ、結果として事業所全体の信頼性も低下します。

サービスの質低下と利用者への影響

リーダー不在がもたらす最大の課題は、利用者へのサービスの質に直結する点です。判断の不一致や情報不足により、利用者にとって不安や不快を感じる場面が増えれば、「ここに頼んで大丈夫なのか」という疑念につながります。

また、スタッフの定着率が低下すれば、利用者は担当者の入れ替わりに戸惑い、継続的な信頼関係が築けなくなります。訪問看護において利用者と家族の安心感は極めて重要であり、それを守るのはリーダーの存在に大きく依存しています。つまりリーダー不在は内部の問題にとどまらず、地域の中での事業所の評価や信頼にも大きな影響を及ぼすのです。

リーダーに求められる資質とリーダーシップの在り方

率先して動く姿勢が信頼を生む

訪問看護のリーダーにとって、最も分かりやすく周囲に影響を与えるのは「率先して動く姿勢」です。口で指示を出すだけではなく、自ら訪問に同行したり、困難なケースを一緒に引き受けたりすることで、スタッフは「この人のもとで働けば安心できる」と感じます。特に経験の浅いスタッフにとっては、リーダーが実際に動いて見せる姿が学びの機会となり、自信を持って業務に取り組めるようになります。

また、率先する行動はチーム全体に「自分も頑張ろう」という前向きな空気を広げる効果があります。リーダー自身が現場に立ち続けることで、組織に根強い信頼感を築くことができるのです。

誠実さと謙虚さで信頼関係を築く

訪問看護は人と人との関係性に基づく仕事です。リーダーに必要なのは、肩書きによる権威性ではなく、誠実さと謙虚さに裏打ちされた信頼です。例えばスタッフが失敗したとき、頭ごなしに責めるのではなく、共に改善策を考える姿勢を示すことで、スタッフは安心して本音を話すようになります。

また、自分がわからないことを素直に認め、学び続ける姿勢を持つことも大切です。「完璧な存在」であろうとするのではなく、「共に成長する仲間」として接することで、スタッフから自然と信頼が寄せられます。誠実さと謙虚さは、リーダーとしての権威よりも強い影響力を発揮する資質といえます。

言葉と仕組みで人を動かす力

リーダーは感覚的な励ましだけではなく、言葉と仕組みを用いてチームを動かす力が求められます。具体的には、現場での出来事をチーム全体の学びに変えるための「振り返りの場」を設定したり、日常的に声をかけ合える仕組みを整えたりすることです。

また、スタッフに向けて投げかける言葉も重要です。

「どうしてそう感じたの?」
「理想の状態はどんな姿?」

といった問いかけは、スタッフに考える機会を与え、主体性を引き出します。単なる指示ではなく、考えを促す言葉と、それを日常的に活かせる仕組みを組み合わせることが、チームを持続的に成長させるカギとなります。

理念を現場に落とし込む力

訪問看護の事業所には、それぞれの理念やビジョンがあります。しかし、それが単なるスローガンで終わってしまうと、スタッフにとっては「現場の忙しさと関係ないもの」として捉えられてしまいます。リーダーに必要なのは、この理念を具体的な日常の行動に落とし込む力です。

例えば「利用者が安心して暮らせる地域をつくる」という理念を、「利用者の小さな変化に必ず気づき、声に出して共有する」という行動に置き換えて示すことができます。こうした具体的な翻訳を重ねることで、理念は現場の実感と結びつき、スタッフの行動に浸透していきます。リーダーが理念を現場レベルに引き寄せることこそ、組織文化を育む力となるのです。

訪問看護リーダーが明日から実践できる行動

1on1対話でスタッフの声を拾う

リーダーにとって欠かせないのは、スタッフ一人ひとりの気持ちや悩みに耳を傾けることです。日々の訪問で忙しい中でも、短時間で良いので定期的に1on1の時間を設けることは大きな意味を持ちます。

「最近の訪問で困ったことはある?」
「この前のケースで不安に感じたことは?」

といった問いかけを通じて、スタッフは安心して本音を話すきっかけを得ます。形式張った面談ではなく、気軽に会話できる場とすることで、問題が深刻化する前に対応できるのも大きなメリットです。小さな声を早めに拾う姿勢は、スタッフに「見てもらえている」という安心感を与え、定着にもつながります。

訪問後の気づきを共有する文化をつくる

訪問看護では、利用者ごとに異なる状況や課題に直面します。その中で得られる学びや気づきは、スタッフ個人にとってだけでなくチーム全体にとっても貴重な財産です。しかし共有されないままにしてしまうと、せっかくの経験が活かされません。リーダーは、訪問後の短い時間を活用して「振り返りシェア」を仕組みにすることが求められます。

例えば「今日の訪問で感じた工夫や課題を一言で共有する」など、簡単にできる形から始めると定着しやすくなります。共有の文化が根づけば、新人は先輩の経験から学びやすくなり、ベテランも新たな視点を得られます。知識と経験を循環させる場をつくるのは、リーダーにしかできない大切な役割です。

「一緒に考える」姿勢を示す

リーダーは判断を下す立場であると同時に、スタッフと共に悩み、考える存在でもあります。特に新人が壁に直面したとき、

「それはこうすればいい」

と即答するのではなく、

「あなたはどう思う?」
「他に選択肢はあるかな?」

と問いかけを返すことが重要です。そうすることで、スタッフは自らの思考を深め、主体性を育てることができます。もちろん最終的に方向性を示すのはリーダーですが、その過程に「一緒に考えてくれた」という経験があると、スタッフは納得感を持って行動に移せます。この姿勢は信頼関係を強めるだけでなく、スタッフが将来リーダーとして成長する土台を築くことにもつながります。

リーダー自身が学び続ける姿勢を持つ

スタッフを導く立場であるリーダー自身もまた、学び続ける姿勢が欠かせません。医療制度の変化や在宅医療のニーズの多様化に対応するためには、最新の知識や事例を取り入れる必要があります。外部研修や勉強会への参加、同業者とのネットワークづくりなどを通じて自らを磨き続けることで、スタッフからの信頼も高まります。

また、「自分も学んでいる」という姿を見せることは、スタッフにとって大きな励みとなり、学び合う文化を組織に根づかせます。リーダーが学び続ける姿勢を持つことで、チーム全体が前向きに成長していく循環を生み出すのです。


訪問看護の現場において、リーダーは単なる管理者ではなく、チームを導き支える存在です。スタッフが孤独や不安を抱えやすい働き方だからこそ、リーダーが方向性を示し、育成し、信頼関係を築くことが欠かせません。もしその役割が不在であれば、情報共有不足や新人の孤立、サービスの質低下といった課題が生じます。逆に、率先する姿勢や誠実さを持ち、言葉と仕組みでチームを動かすことができれば、組織は安定し、利用者や家族の信頼にもつながります。本記事で紹介した具体的な行動は、明日からでも実践可能なものばかりです。リーダーが小さな一歩を積み重ねていくことで、訪問看護の現場はより働きやすく、持続可能な場所へと変わっていきます。



監修者:牟田 健登(Kento Muta)

株式会社クルージズ・テクノロジーズ代表取締役。2021年に創業し、在宅医療・介護業界に特化した人事コンサルティング・人事評価SaaSを展開。訪問看護ステーションや訪問介護ステーションを中心にサービスを展開中。

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