「最近の若い子はすぐ辞める」──その原因、本当に“若い子”ですか?
「最近の若い子って、我慢がきかないよね」
「ちょっと注意しただけで辞めちゃう」
「昔はもっと厳しくても辞めなかったのに……」
こうした言葉、訪問看護の現場でも日常的に耳にします。特に管理者層やベテランスタッフからは、“もう何人辞めたことか”という諦め交じりの声も少なくありません。
しかし、「最近の若い子だから」ではなく、「組織の構造が変わっていないから」ではないでしょうか?
この記事では、訪問看護ステーションにおける若手スタッフの離職について、よくある誤解と、その背景にある「見えづらい構造的な問題」を紐解いていきます。
離職の本当の理由は、「言えない空気」がつくっている

まず、訪問看護の現場で若手が辞める理由を、実際のエピソードから見てみましょう。
☒ 初日の訪問が思っていた以上にハードで、誰にも言えず落ち込んだ
☒ 「これってどうすれば…」と思っても、先輩は忙しそうで聞きづらい
☒ 申し送りでの注意が、あまりに冷たく感じてメンタルが落ちた
☒ 「何かあれば言ってね」と言われたけど、“誰に何をどう言えばいいか”が分からなかった
これ、世代に関係ありますか?
おそらく、どの年代でも辛いし、辞めたくなります。
でも、現場ではこれを「最近の若い子は根性がない」で片づけてしまいがち。すると──
● 問題の本質が見えなくなる
● 組織側が「構造を変える努力」をしなくなる
● 結果、次の新人もまた辞める
……という負のループが続いてしまうのです。
「最近の若い子でも定着している」職場は、何をしているか
現実には、若手スタッフがしっかりと定着し、育っている訪問看護ステーションも存在します。
その違いは何か──
結論から言えば、「居続けられる設計」があるかどうかです。
具体的には、以下のような要素が整っています。
受け入れ初日からのステップが明確に設計されている
訪問看護の現場は、いきなり一人で動くにはハードルが高い仕事です。だからこそ、入職からの数週間〜数ヶ月にわたって「何を・いつ・どのように経験するのか」を段階的に示しているステーションは、若手が不安を抱えずに過ごせます。
たとえば、「初日は1日の流れを見る同行のみ」「3日目から軽い介入に挑戦」「1ヶ月目までは1人訪問なし」など、各ステップの目的と支援体制を明文化することで、「今の自分はこれでいい」と納得しながら進むことができます。この“安心の見取り図”があるだけで、辞める理由が一つ減ります。
気軽に話せる関係性を仕組みでつくっている
「困ったときに、誰にどう聞けばいいか分からない」。この状態が長引くと、新人は孤立し、やがてフェードアウトしてしまいます。だからこそ、ステーション全体で“相談できる関係性”を意図的に仕組み化しているかがカギになります。
たとえば、入職時に「この人にまず相談してね」とメンターを明示する、SlackやLINEグループで「質問専用チャンネル」を用意する、週1の定例ミーティングで「最近の小さな不安」も共有するなど、小さな設計の積み重ねが大きな信頼につながります。個人任せにせず、仕組みとして「話せる空気」をつくることが定着率に直結します。
✅注意も評価も「言い方」と「文脈」に配慮している
同じ内容でも、「どう伝えるか」で受け止め方はまったく違います。特に訪問看護は1人業務が多く、報告・連携の中で伝達のトーンが誤解を生むこともあります。だからこそ、「怒り」ではなく「期待」として伝える姿勢が重要です。
たとえば、「なんでミスしたの?」ではなく「次にどうすれば良くなるか一緒に考えよう」といった言い換え、「申し送りで指摘する前に、1対1で丁寧に伝えるタイミングを設ける」といった配慮が求められます。注意の“中身”ではなく、「伝え方とタイミング」を意識する文化が根づくことで、若手が必要以上に萎縮せず、自信を持って成長していける土壌が生まれます。
「ここで成長できそう」と思えるビジョンがある
若手スタッフは、「今の自分がどう評価されているか」だけでなく、「ここで働き続けたらどう成長できるか」を常に無意識に考えています。キャリア面談や定期フィードバックの中で、「あなたはこういうところが強みだね」「半年後にはこの業務にチャレンジしよう」といった具体的な未来像を提示できる職場では、若手の“自己効力感”が自然に育ちます。
また、「管理職にならなくても専門性を高められる道がある」「子育てと両立しながら成長している先輩がいる」など、ロールモデルの存在が“自分の未来”をリアルに想像させる導線になります。ビジョンは口先ではなく、“誰かの歩み”を見せることが何より効果的です。
「辞めた新人が悪い」は、問題の本質を見落とすサイン

離職が出たとき、管理者や既存スタッフの間でよく聞かれるのが、
× 「あの子は最初からやる気がなかったよね」
× 「真面目すぎて勝手に潰れた」
× 「合う・合わないってあるし、うちはちょっと特殊だから…」
といった自己防衛的な言葉です。
一見もっともらしいですが、これは「組織側の構造に目を向けなくて済む」ための都合の良いラベリングに過ぎません。
こうした発言が繰り返される職場では、多くの場合、次のような離職の兆候が慢性化しています。
・毎月のように新人が数ヶ月で辞めていく
・面談や振り返りの機会がほとんどなく、不満や不安が表に出てこない?
・教える側が疲弊し、怒る・突き放す・見て見ぬふりのいずれかになっている
・「長く続く人」は、“その空気に耐えられる特殊な人”ばかり
つまり、「育成している」ようで実態はふるいにかけているだけの職場構造になってしまっているのです。
たとえば、ある訪問看護ステーションでは「忙しすぎて教える時間が取れないから、とりあえず同行して覚えてもらう」という方針を取っていました。結果、新人は常に“試されている”感覚になり、言いたいことも言えずに沈黙。3ヶ月で辞めてしまいました。上司のコメントは、「言ってくれれば良かったのに」。
──でも、本当に言える空気があったでしょうか?
重要なのは、「誰が悪いか」ではなく、「何がその離職を招いたのか」を構造として捉え直すことです。
長く続いているスタッフがいるからといって、それが「定着している証拠」とは限りません。その人が“個人的に強かった”だけかもしれません。
本当に問うべきは、「この仕組みは、どんな人でも続けられる構造になっているか?」です。
新人の離職を“個人の特性”として処理する限り、組織は何も変わらず、同じ理由で人が去り続けます。
繰り返される離職の背景には、変えずに放置された「構造的な欠陥」がある──それに気づけるかどうかが、採用と育成の転換点になります。
本当に問うべきは、「うちが合う組織になれているか?」
「この子、うちには合わなかったんだろうね」
──新人スタッフが辞めたとき、よく聞かれるこの言葉。
でもそれは、本当に“本人側の適応力”だけが問題だったのでしょうか?
本当に問うべきは、
「この職場は、“誰かにとって”ではなく、“誰にとっても”合う組織になれているのか?」
という視点です。
訪問看護は、専門性が求められる仕事である一方で、個人の裁量が大きく、精神的・技術的なプレッシャーも強い職種です。その分、「合う・合わない」が属人的に語られやすく、辞めた理由も個人に帰属させてしまう傾向があります。
でも、現代の働き手、とくに若手スタッフたちはこう考えています。
- 「この職場は自分の“わからない”を受け入れてくれるか?」
- 「人として尊重される関係性があるか?」
- 「学び続けることを支えてくれるか?」
- 「ここで成長していける未来が描けるか?」
これは、ただの職場選びの条件ではありません。
「安心して働くために必要な構造」が備わっているかどうかの問いなのです。
どんなにスキルや性格がマッチしていても、制度も文化も整っていなければ、「このままここにいていいのかな…」という不安が日々蓄積していきます。逆に、「自分を肯定してくれる空気」「困ったときに助けてくれる構造」があれば、多少の不一致や不安も乗り越えていけるのです。
つまり、人が辞めるときに見るべきなのは「この人に合わなかった理由」ではなく、
「この職場が、“この人が合える場所”になる努力をしていたか?」
という問いです。
合う・合わないを個人任せにする時代は、もう終わりにしなければなりません。
時代が変わり、価値観が多様化し、働き方のニーズも刻一刻と変わっていく中で、変化に対応できる“柔らかさ”を持った組織が、これからの人材戦略において勝ち筋をつかんでいきます。
あなたのステーションで、今すぐできるNext Action

「組織として変わる必要はある」と思っていても、何から始めればいいか分からない。
そんなときにこそ、「まずできる一歩」を具体的に描けるかどうかが分岐点になります。以下に紹介する4つのアクションは、訪問看護の現場で実際に効果を上げている実践例にもとづいた内容です。どれもすぐに取り組めて、かつ組織の変化を着実に促す“土台づくり”となります。
新人の1ヶ月目スケジュールを『見える化』する
新人が職場を辞める最大の理由のひとつは、「このままで大丈夫なのか分からない不安」です。
訪問看護は、業務の裁量が大きい分、マニュアルや導線が曖昧な職場では「自分がちゃんと成長できているか」「評価されているのか」が見えづらくなります。
そのため、入職初月のスケジュールを“経験・目標・フォロー内容”の3軸で構造化することが効果的です。
たとえば:
1週目:100%同行/「1日の流れを見ること」が目標
2週目:記録を自分で書いてみる/育成担当が確認・フィードバック
3週目:軽度のケースを限定して主担当へ/同行者が後方支援
4週目:1人訪問に向けた事前OJTと本人の振り返り
このように、「今どこにいて、次は何をするのか」を新人自身が把握できる構造を用意することで、「できないこと」が不安ではなく「予定通りのこと」になります。
また、スケジュールを上司だけでなくチーム全体で共有しておくことも重要です。新人に対する過剰な期待や、勝手な“即戦力前提”の空気を未然に防ぐことにもつながります。
本音が言える『場所』を意図的につくる
どんなに「遠慮せずに相談してね」と言われても、それが言える“場”と“関係性”がなければ、口にすることはできません。
訪問看護のように単独業務が多い職場では、スタッフ間の雑談や自然なコミュニケーションの頻度が病棟や施設に比べて圧倒的に少なくなります。
結果、心理的な距離を埋める機会がないまま、“ひとりで抱える”構造ができてしまいます。
だからこそ、以下のような“仕組みとしての対話空間”が必要です。
〇 SlackやLINEで「質問・雑談チャンネル」を常設し、ベテランも雑談を投稿して空気をつくる
〇 週1回5分の「ふりかえりトークタイム」(例:今週しんどかったこと1つ共有)
〇 月1の1on1で“仕事以外の話”もテーマにする(例:「最近生活どうですか?」)
本音を引き出すには、“業務外の話ができる関係性”がベースになります。
加えて、管理者自身が「言いづらいことを言う側のロールモデル」になることも重要です。
たとえば、「自分も新人の頃こういうことで悩んだ」といった過去の体験をシェアすることで、「ここでは本音を話していいんだ」という空気が定着していきます。
スタッフ同士で「伝え方」を見直す時間をつくる
訪問看護では、1対1の関係性が多く、LINEや申し送りなどの“テキストベース”のコミュニケーションも増えています。そのぶん、伝えた側は気づかないまま、受け取る側だけが深く傷ついてしまうケースが多発します。
こうした摩擦を減らすには、「伝える技術」を“感覚”ではなく“チームで学び合うテーマ”として扱う必要があります。
たとえば、月1回の定例MTGで以下のようなテーマを設けて話し合うことが効果的です。
・最近、伝え方に困ったシーンを共有
・自分が言われて嫌だった言い方は?
・「伝える」と「責める」の違いって何だろう?
・指摘前に挟む“ひと言クッション”を考えてみる(例:「あくまで私の体験なんだけど…」)
また、感情が乗った言葉を使わず、事実+期待をセットで伝えるフレーズ設計(例:「この場面では〇〇が必要だから、次からこうしてみよう」)をチーム全体で練習するのも効果的です。
伝え方の見直しは、“新人のため”だけではなく、スタッフ全体の空気とストレス耐性を整える組織改善でもあります。
離職理由を“構造”として振り返る
「辞めた理由は性格の問題だった」
「やる気がなかったんだと思う」
──このように片づけてしまうと、組織は永遠に同じ問題を繰り返します。
特に訪問看護は、短期間での退職が多い業種でもあります。そのため、離職の背景にある“構造の欠落”に目を向けることが、採用・育成の質を左右します。
おすすめは、スタッフ全体で「構造の視点から退職を振り返る場」を設けることです。
例えば:
- 「辞めた直前の行動変化は何か?」
- 「どこで本人の不安をキャッチできていれば防げたか?」
- 「この退職は、個人ではなく仕組みにどんなメッセージを投げかけていたか?」
このように、“過去の出来事”ではなく“これからの設計”として振り返ることで、退職という出来事が「責任のなすり合い」ではなく「学びの種」に変わります。
さらに、「辞めた人の声を“活かす組織”かどうか」が、残ったスタッフの信頼感にも影響するため、結果的に内部のモチベーションや定着にもつながっていきます。

