「求人を出しても反応がない」
「スカウトを送っても既読すらされない」
──今、そんな声が医療・歯科業界全体から多く聞こえています。特にこの1〜2年で深刻化しているのが、採用単価の高騰と採用成果の乖離です。
たとえば、看護師や歯科衛生士を1人採用するのに30万円以上の費用がかかっても、応募はゼロ。 面接にすら進めない。 そうした現象が、もはや珍しくなくなってきました。
媒体を変えても効果が出ない、スカウト文を工夫しても反応が薄い──。 そんな状況で、「どこを変えればいいのか分からない」と立ち止まっている事業者も多いのではないでしょうか。
ただ、この状況の根本原因は「媒体の選び方」や「文面の工夫」ではありません。本質は、“誰に・何を・どう届けるか”という採用設計の構造にあります。
今はもう、「求人を出せば来る時代」は終わり。「届く仕組み」を設計してはじめて、採用が“投資”になるフェーズに入っています。
本記事では、なぜ今「お金をかけても採れない」のかという構造的な問題を整理しながら、これからの採用に必要な“戦略設計”の視点をお伝えします。媒体より先に、見るべきものがある──そんな問いかけから、始めてみませんか?
採用コストが上がってるのは“競合のせい”じゃない

「他のクリニックも求人広告強化してるし、うちも出さないと…」
「人が取り合いになってるから、費用が上がるのは仕方ないよね」
──そんなふうに、“競合のせいで採用が難しくなっている”と感じている医療・歯科関係者は少なくありません。確かに、看護師や歯科衛生士、医療事務など特定職種の取り合いは年々激しくなっており、媒体の掲載枠は飽和状態。出稿数が増えれば、当然クリック単価も上がります。
しかし、それは「競合と枠を取り合っている」という表面的な現象にすぎません。問題の本質は、そこではないのです。
反応が取れない構造は「競合が強いから」ではなく「自院の設計不足」
採用の失敗を“競合の強さ”のせいにしてしまうと、本質的な改善は見込めません。なぜなら、本当に反応が出ている医療法人や歯科医院、訪問看護ステーションも、同じ市場環境で戦っているからです。
例えば、同じエリア、同じ媒体に出しているのに応募が来ているA医院と、全く反応がないB医院があるとします。この差を生むのは、「媒体の選び方」でも「出稿タイミング」でもなく、“誰に・何を・どう伝えているか”の設計精度です。
「求人=出せば来る」はもう幻想
かつては、媒体に掲載するだけで一定の応募が見込めました。しかし今は違います。
求職者は複数の求人を比較し、「自分にとってのリアル」があるかどうかで判断しています。以下のような問いに、設計の段階で答えられていないと、いくら広告を強化しても反応は得られません
これらがあいまいなままでは、「どこに出しても、誰にも届かない」という悪循環に陥ります。採用は、“求人数の勝負”ではなく、“伝え方の設計力”が問われるフェーズに入っているのです。
戦うべき相手を間違えていないか?
よくある思考の罠に、「他もやってるから、うちもやらなきゃ」という同調圧力があります。しかし、それが発想の出発点になってしまうと、自院の採用は常に後手に回り、価格競争に巻き込まれます。
競合と同じ土俵で戦うより、「自分たちだけが出せる価値を、正しい相手に伝える」設計をしたほうが、コストも成果も確実に変わります。採用難の時代こそ、“他と同じことをやらない”という選択が、差を生む鍵になるのです。
「枠にお金をかけても、届かない設計」のままでは焼け石に水

「高い掲載プランに変えたのに応募がゼロ」
「インディードのスポンサー枠に出したのにクリック数すら伸びない」
──そんな状況、思い当たる方も多いのではないでしょうか?
特に医療・歯科業界では、媒体への依存度が高い分、「露出を増やせば反応が来る」という発想に陥りやすい構造があります。しかし、それはかつて“枠を買えば採れる”時代の話。いまは「出す」ことより「届く」ことが重要視される時代です。
見られていない、読まれていない、だから反応がない
たとえば、ある歯科医院が月15万円の予算で求人媒体に出稿していたとします。目立つ位置に掲載され、写真もきれい、福利厚生もアピールされている。でも、なぜか応募が来ない。
このとき、多くの経営者が真っ先に疑うのは「予算が足りないのでは?」ということ。でも本当の原因は、「届いていない」「読まれていない」「刺さっていない」のどれかです。
反応が出ないのは、予算の問題ではなく、設計の問題。つまり、ターゲット設定・伝え方・導線設計がズレていると、どれだけ広告費を積んでも結果は変わりません。
採用は「打てば響くもの」ではなく「届く構造」が必要
今や、求職者の多くは「複数の求人を並列に比較」し、「直感的にフィットするかどうか」で判断しています。そこで重要になるのが以下の3つの視点です。
1.ターゲット設定:
→「誰に届けたいのか」が曖昧では、伝え方もブレる
→ 例:20代衛生士と40代看護師では響く言葉が全く違う
2.伝え方(コンテンツ):
→「自分ごと」に感じられる言葉・ストーリーがあるか
→ 福利厚生の列挙より「制度のおかげでどう救われたか」の描写が大事
3.動線設計:
→ 興味を持った人が「すぐに・気軽に」接点を持てるか
→ LINE応募、カジュアル面談、DM相談など心理的ハードルを下げる工夫
この3点が設計されていなければ、どれだけ枠を広げても、“届かないまま”費用だけが消えていくことになります。
「出しているのに効果がない」は、構造のSOS
実は、「広告費はかけているのに成果が出ない」という状態は、ある種の“シグナル”です。それはつまり、「設計が時代に追いついていない」という警告とも言えます。
この段階で必要なのは、媒体を変えることではなく、「誰に何をどう届けるか」を問い直す設計の再構築です。見出しを変える、写真を差し替える、といった表面的な改善だけでは、もはや通用しないのが今の採用環境なのです。
「どこに出すか」より、「どう届かせるか」。それが、採用成果を左右する最大の分岐点です。
採用単価の“元が取れない”時代に、何をすべきか?

「1人採るのに30万。なのに、3ヶ月で辞めてしまった」
「なんとか採用したけど、戦力になるまでにさらに教育コストがかかる」
──そんな声が、医療・歯科業界の現場では頻出しています。
このように、単に“採ること”だけに注目していると、採用単価が“回収できないコスト”として積み上がっていく危険性があります。つまり今は、「採用=投資」ではなく、「採用=消耗」になっている医院やクリニックが多いのです。
問題は「お金をかければ解決する」という幻想
この構造的な問題の本質は、「お金で解決しようとする発想」にあります。
- 高額なスカウトツールを契約
- 上位プランの求人媒体に掲載
- 動画コンテンツを制作してインスタ広告に出稿
──どれも一見“前向きな投資”に見えますが、設計が不在のままでは、どれも消耗戦にしかなりません。
解決のカギは「金で解決」から「設計で解決」への転換
これからの採用は、“打つ手”の話ではなく、“構造”の話です。以下の4つの視点を再設計するだけで、採用単価は驚くほど改善します。
①誰に届けたいのか?(ペルソナの再定義)
「歯科衛生士を採りたい」「看護師を採りたい」だけでは不十分です。どんな人材が欲しいのかを分解し、ペルソナを再定義していく必要があります。ポイントは条件だけでなく、“どんな状況にいる、どんな価値観を持った人なのか”まで描けているかが鍵となります。
例:
・今の職場にどんな不満を持っている?
・子育て中?ひとり暮らし?扶養内?
・仕事に何を求めている?(安定/成長/人間関係)
②どこにその人はいるのか?(導線設計)
せっかくペルソナが明確になっても、その人が見ていない媒体に出しても意味がありません。
求人媒体、Instagram、TikTok、ハローワーク、地域の勉強会──タッチポイントを再構築することが不可欠です。
③どう書けばその人に刺さるのか?(原稿構成)
今の求人原稿、「どれも似たり寄ったり」になっていませんか?給与や休日数だけで勝負しても、比較されるだけです。
求職者の“不安”に寄り添い、“自分ごと”に感じられるストーリー設計が不可欠です。
④応募後にどう不安を潰せるか?(初期対応フロー)
反応があったあとも、「面接が怖い」「いきなり応募は不安」という人が多い今、いきなり面接ではなく、“軽い接点”を挟むステップ設計が有効です。
例:
・担当者とのLINEチャット
・カジュアル面談の導入
・見学OKの案内
設計があってはじめて、打ち手が“投資”になる
逆に言えば、この4つの構造を整えていれば、媒体もスカウトもSNSも、すべてが“成果の出る武器”になります。
今の採用単価が高すぎると感じているなら、それは媒体のせいではなく、「構造不足のまま、お金をかけてしまっている状態」かもしれません。
「設計してから打つ」──これが、元を取るための必須条件です。
採用は「広告コストの話」ではなく「経営設計の話」

「とにかく人が来ないから、採用費用を積み増した」
「1人30万円かかったけど、仕方ないよね」
──そんなふうに、“採用コスト”を広告費として捉えるクリニックや医院は少なくありません。ですが、本来採用は経費ではなく、経営そのものを支える“投資”であるべきものです。
採れた人がすぐ辞めてしまう、職場に合わない、成長しない
──こうした結果が続けば、いくら単価をかけても医院にとってのリターンはゼロ。むしろマイナスです。
いま、「採用単価をどう下げるか」より、「採れる仕組みをどう設計するか」に発想を変える必要があります。
採用単価は“経営判断”の指標である
よく「1人採るのに30万円は高い」と言われますが、それはあくまで“成果次第で変わる”数値です。
〇 採った人が定着し、3年活躍してくれるなら安い
〇 数ヶ月で辞めてしまえば、どんなに単価が安くても高くつく
つまり採用単価は、“いくらかけたか”ではなく“どう活かせたか”で初めて評価できる指標です。
これは、もはや広告予算の話ではなく、中長期の人材戦略=経営設計の話なのです。
「どんな人を採るか」が、「どんな組織になるか」を決める
特に医療・歯科業界では、採用した人材がそのまま組織の“空気”や“文化”に直結します。
たとえば…
✓ コミュニケーションが得意な人が増えれば、連携がスムーズになり
✓ 学び続ける姿勢を持った人が増えれば、スタッフ間の成長循環が生まれる
✓ 自分の仕事に誇りを持つ人が増えれば、患者との関係も安定する
つまり、誰を採るか=どんな未来をつくるかを決めているのが「採用」です。
採用は「短期の補充」ではなく「中長期の投資」
1人採るだけで「なんとか人手が足りた」と思ってしまうと、その場しのぎの“補充思考”から抜け出せません。けれど本来、採用は中長期の安定・成長をつくる設計図の一部であるべきです。
● この人は、どんなふうに育っていくか?
● 半年後・1年後にどんなポジションで活躍できるか?
● そのために今、どんな環境を用意すべきか?
こうした視点があって初めて、「採って終わり」ではなく、「育てて活かす」採用に転換できます。
“お金をかける”から“未来を設計する”へ
採用にかかるお金は、ただの費用ではなく、「組織の未来を買うコスト」です。
広告単価だけを見て一喜一憂するのではなく、その先にある組織づくり・人材の成長・経営の安定性を見据える視点が、これからの採用には不可欠です。
採用は、経費ではなく戦略。単価の高さを嘆くより、「それをどう活かすか」に目を向けること。それが、医療・歯科業界の採用戦略を次のステージへ進める第一歩です。
高単価でも採れる組織 vs いくらかけても採れない組織

採用に月数十万円を投じても応募がゼロ──。
一方で、同じエリア・同じ職種で、広告を出せばすぐに反応がある医院も存在します。しかも、採用単価が40万を超えても「元が取れる」と言い切れるケースも少なくありません。
この違いはいったい何なのか?
答えはシンプルで、「戦略を持って採用に取り組んでいるかどうか」です。
媒体に出してるのに成果が出ない組織の共通点
成果が出ない組織には、ある一定の共通パターンがあります。
これらはすべて、“戦略がないまま”採用に臨んでいる状態です。つまり、媒体を「出す先」としてしか捉えておらず、「届け方」「受け皿」「体験設計」が抜けているのです。
「高単価でも採れる組織」がやっていること
一方で、採用単価が高くても成果を出している組織には、明確な共通点があります。
①届ける相手(ペルソナ)を明確に定めている
→「20代前半の第二新卒層」「30代で時短勤務希望」など、具体的に絞っている
②自医院のリアルな価値・文化を言語化している
→ 福利厚生ではなく、「この制度がどう生活を変えたか」をストーリーで伝える
③応募後の導線と体験を設計している
→「まずは見学から」「LINEで気軽に相談OK」といった接点があり、心理的ハードルを下げている
④採用における“判断軸”を組織として共有している
→ ただ“採れそうな人”ではなく、“この組織にフィットする人”を明確に定義して選んでいる
こうした医院・クリニックでは、採用単価は高くても、長期的な人材定着と戦力化に成功しているため、結果的に「安く済んでいる」という状態をつくり出しています。
採用単価は「戦略の精度」で決まる
つまり、採用単価の差は、広告費の多寡ではなく、構造の有無で決まります。
「どうせ取れないから、また媒体を変えるか…」
という発想を繰り返すのではなく、“組織としての採用設計力”を高めることが、最も確実で本質的な解決策なのです。
採用は「試行錯誤できる力」を持つ組織だけが勝つ時代へ
今後、医療・歯科業界の採用はさらに難易度が上がっていくでしょう。
そのなかで成果を出し続けるのは、広告の知識を持っている医院ではなく、“現状を問い直し、戦略を継続的に見直す力”を持っている組織です。
✓ なぜこの人に響いたのか?
✓ どこで離脱されたのか?
✓ 何が不安として残ったのか?
このように、採用活動そのものを「思考と改善の対象」として捉えられる組織だけが、今後の競争を勝ち抜いていくことになります。
高単価でも採れる組織は、「採用を経営戦略として扱っている」。いくらかけても採れない組織は、「採用を単発のイベントとして見ている」。その差は、成果という形ではっきりと表れていきます。
明日から実行できる4つのアクション

「採用単価が上がってるのに、成果が出ない」──
そんな状況を変えるには、媒体を変えるより先に「採用の設計そのもの」を問い直す必要があります。いきなりすべてを変えなくても大丈夫。まずは、小さな一歩から始めてみましょう。
以下の4つの行動は、明日から実践可能な具体アクションです。
アクション①:自院の「ペルソナ」を改めて1人分だけ書き出す
「どんな人に来てほしいか」を、ぼんやりとではなく、“たった1人の顔が思い浮かぶレベル”で言語化してみましょう。
例:
- 年代、家族構成、現在の職場、感じている不満、理想の働き方…
- 例:「30代前半、育休明け。現在は総合病院で時短勤務。家庭との両立に悩んでいる」
この精度が上がるほど、求人内容も導線も「刺さる設計」に変わります。
アクション②:採用ページや原稿を“リアルなストーリー”に1つ差し替える
制度や待遇の羅列ではなく、「実際にスタッフがその制度をどう活用して、どう救われたか」というストーリーを1つ入れてみてください。
例:
- 「子どもが熱を出したとき、電話一本で直帰できた」
- 「育休から戻ってもリーダーポジションを任せてもらえた」
これだけで、求職者が“自分ごと”として読んでくれる確率がぐっと上がります。
アクション③:「応募前に接点を持てる導線」を1つ用意する
「応募=面接」という構造は、いまや離脱の温床です。心理的ハードルを下げるために、“応募前の接点”をひとつだけでも整備してみましょう。
例:
- LINEでの事前相談を導入する
- 「カジュアル面談OK」「見学だけでも歓迎」と原稿に明記する
アクション④:採用結果を「応募数」ではなく「定着率」で振り返ってみる
最後に、“採れたか”ではなく“残ったか”で採用を評価してみる視点を持つこと。過去6ヶ月〜1年で採用した人のうち、
- 続いている人と辞めた人の比率は?
- 定着している人の共通点は?
ここから、「うちが本当に採るべき人材像」が見えてきます。
「採用単価が高い=媒体が悪い」と決めつける前に、まずは“戦略を問い直す”ことから始めましょう。届け方・伝え方・受け皿の設計を見直すだけで、採用の成果は確実に変わります。
採用は、経費ではなく「未来への設計」。その第一歩は、今、あなたの手元から踏み出せます。
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