「紹介会社から良さそうな看護師を紹介されたが、手数料が気になる」
「でも他に採用の方法がないのも事実で、悩ましい…」
訪問看護ステーションの経営や採用を担う立場にある方にとって、看護師採用は現場の運営に直結する重要なテーマです。なかでも人材紹介会社の活用は、即戦力人材に出会える有効な手段として広く用いられています。ただ一方で、採用が決まった際に発生する紹介手数料が心理的ハードルになることもあります。
この手数料をどう捉えるかは、事業者ごとに異なります。ある方にとっては「良い人材を確保できたのだから投資だ」と考える一方、「同じ人材が直接応募してくれたら費用は抑えられたのに」と感じる方もいます。要は、紹介会社をどう位置付け、どのように利用するかが問われているのです。
この記事では、まず人材紹介の仕組みと報酬構造を確認し、そのうえで紹介会社を活用することの意味を整理します。そして後半では、紹介会社を利用せずに自主応募を集めるには何が必要か、自社でできる取り組みについて具体的にご紹介します。
人材紹介とは何か?仕組みと報酬の構造を理解する

人材紹介は「成果報酬型の採用支援サービス」
人材紹介とは、採用したい企業と転職を希望する人材をマッチングさせるサービスです。企業は紹介会社に求人情報を提供し、紹介会社は自社の登録人材の中から条件に合う候補者を選び、面談・面接を経て採用が成立すれば、企業に対して紹介手数料が発生する仕組みです。紹介手数料は「成果報酬」として、採用が成立した時点で請求されるのが一般的です。
このモデルの特徴は、初期費用が発生しない点にあります。求人広告とは異なり、掲載料金やスカウト費用は不要で、採用が成立するまでコストはかかりません。そのため、
「今すぐ人を採用したい」「どうしても充足させたいポジションがある」
といった緊急性の高い状況では、有効な手段となります。
人材紹介における紹介手数料の中身とは?
紹介手数料は通常、採用者の理論年収の20〜35%程度で設定されることが多く、例えば年収500万円の看護師を採用した場合、紹介会社に100万〜175万円程度の報酬を支払うケースが想定されます。この手数料の中には、以下のような業務コストが含まれています。
・求職者集客のための広告・マーケティング費用
・候補者との面談・カウンセリング対応
・面接日程の調整や企業側への候補者推薦
・条件交渉のサポートや入職後のフォロー連絡
つまり、紹介会社が単に“紹介”しているのではなく、「採用プロセスの一部を外部委託している」と捉えることができます。人材紹介は、求職者との接点づくりから成約までの業務を一貫して引き受けている点が本質です。
紹介手数料は「投資」か「コスト」か?
紹介手数料が高いか安いかは、絶対値では判断できません。看護師を採用するまでにかかる時間、現場の稼働状況、欠員による機会損失などを含めたトータルの観点から見れば、「早く人材を確保できるなら、その対価として納得できる」と考える経営者も少なくありません。一方で、「時間がかかってもよいので、自社で採用したい」という考え方であれば、紹介手数料は大きな負担と映るでしょう。
紹介会社の活用を検討する際は、「この費用は何に対して支払っているのか?」を一度立ち止まって見直すことが大切です。そのうえで、自社の採用体制や人材獲得の戦略に応じて、紹介会社を“必要な場面だけで選択的に使う”というスタンスも成立します。
人材紹介を活用するメリットとは何か?

看護師採用における「即戦力との接点」を得やすい
人材紹介を活用する最大の利点は、転職意欲が高く、一定のスキルや経験を持った候補者にすぐ出会える点です。訪問看護の現場では、急な退職や新規依頼の増加などにより、採用スピードが求められるケースが多々あります。こうした状況において、人材紹介会社は「いま動ける人材」との接点を短期間で提供できる仕組みとして有効に機能します。
登録者の中には「訪問看護に興味があるが一歩が踏み出せない」「前職の経験を活かしたい」という意欲の高い求職者も多く、事業所のニーズとマッチすれば、採用決定までのスピードは求人媒体に比べて格段に早くなります。
面接調整や交渉を代行してもらえる安心感
紹介会社は候補者との事前面談を通じて、希望条件や働き方のイメージなどを把握しています。そのため、事業所とのマッチングにおいても、条件面の調整や価値観のすり合わせなどが事前に行われており、ミスマッチのリスクを一定程度抑えることが可能です。
また、面接日程の調整、条件提示のタイミング、入職に至るまでのフォローなどもすべて紹介会社が担います。採用業務にリソースを割きにくいステーションでは、これらを外部に任せられることが大きなメリットとなります。
紹介手数料の支払いが「後払い」である利点
一般的な求人広告との大きな違いは、紹介会社では「採用が決まるまでは費用が発生しない」という点です。媒体掲載の場合、結果にかかわらず掲載料が先に発生するのに対し、人材紹介は成果報酬型のため、成功した場合にのみコストがかかります。
このモデルは「まずは候補者と出会いたいが、費用対効果が不安」という事業所にとって、初期投資を抑えながら採用を進められる仕組みでもあります。人件費のムダを避け、リスクをコントロールしたい場面では特に有効です。
人材紹介のデメリットと“見えないリスク”とは?

手数料は「成果報酬」であるがゆえに高額になることも
人材紹介の手数料は成果報酬型であり、採用が決定した場合にのみ費用が発生します。この点は大きなメリットですが、その一方で、1件あたりの金額は決して少なくありません。看護師の場合、年収の20〜35%という水準が一般的であり、仮に年収500万円の方を採用すれば、100万〜175万円前後の費用がかかることになります。
この金額を「即戦力への投資」と見るか、「採用コストとしての負担」と見るかは、各事業所の状況や採用方針によって異なります。ただし、コストのインパクトが大きいのは事実であり、短期間に複数名を採用するケースでは、経営への影響も無視できません。
採用後の退職リスクに対する返金規定は限定的
多くの紹介会社では、採用者が早期に退職した場合の「返金規定」を設けています。たとえば、入職後1ヶ月以内の退職で80%返金、2ヶ月以内で50%返金といったスライド方式が一般的です。しかし、あくまで“規定の範囲内”での対応であり、満額が戻るとは限らず、交渉によっては返金が難航するケースもあります。
また、返金後に新たな候補者を再紹介してもらえる保証があるわけではありません。結果的に「費用は戻らず、採用も進まず」という状態になることもあり、こうしたリスクをどう捉えるかは事前に明確にしておく必要があります。
採用活動の“属人化”と“依存状態”が生まれやすい
紹介会社に採用を委ねすぎると、次第に「紹介がなければ採用できない」という依存状態に陥ることがあります。採用のノウハウが社内に蓄積されず、求人票の改善や媒体運用、ブランディングなどの地力が育ちにくくなるため、長期的に見ると組織の採用力が停滞する要因にもなりかねません。
特に、紹介を受けることが“当たり前”になってくると、事業所側の視点では「選ばれる側」としての改善が後回しになってしまい、応募者が自発的に集まる状況をつくりにくくなります。
人材紹介に頼らず看護師を採用するには?

応募が来ないのは「知られていない」から
「求人は出しているけれど、ほとんど応募が来ない」という声を多く聞きます。しかし、それは本当に“求職者がいない”からでしょうか。実際には、求職者側に「その事業所の存在が届いていない」「どんな職場かイメージできない」ことが原因で、選ばれる以前に“候補にも挙がっていない”ということがほとんどです。
つまり、応募が来ない理由は“知られていないこと”にあり、改善の第一歩は「どのようにして接点をつくるか」という視点から始める必要があります。
自主応募は「接点・共感・安心感」の3つから生まれる
人材紹介に依存せずに応募を集めるためには、以下の3つの要素が重要になります。
1. 接点:求職者の目に触れる場所に、事業所の情報を載せる(SNS、採用サイトなど)
2. 共感:理念や職場の雰囲気、働き方に「自分に合いそう」と感じてもらう
3. 安心感:初めての訪問看護でも大丈夫だと思えるような情報・体制を提示する
これらは単体ではなく、複合的に組み合わさることで初めて“応募してみよう”という気持ちに繋がります。
見学・カジュアル面談・LINEでの接点づくり
いきなりの応募ではなく、「見学OK」「まずは話を聞くだけでも」など、心理的ハードルを下げる仕組みも有効です。カジュアル面談やLINE登録による問い合わせなど、“軽い接点”があることで、求職者が一歩踏み出しやすくなります。
紹介に頼らない採用には時間がかかりますが、「この職場、ちょっと気になる」と思ってもらえる導線を増やすことで、少しずつ応募の質と量を高めていくことができます。
人材紹介に依存しないために、明日から始めること

人材紹介を完全に使わないというのは、現実的には難しい場合もあります。重要なのは、「人材紹介に頼るしかない」状態から脱し、自社で応募を集める力を少しずつ高めていくことです。ここでは、明日から実践できる具体的なアクションを5つに絞って紹介します。
1. 採用専用Instagramアカウントを開設する
すでに多くの訪問看護ステーションやクリニックが導入している手法ですが、まだまだ差がつく領域です。
ポイントは
ではなく
投稿例:「訪問看護未経験だった私が、最初に感じたギャップ」
投稿例:「小学生の子どもがいても続けられる、うちの働き方」
フォロワーが少なくても問題ありません。まずは「職場の空気を言語化・可視化する」ことから始めましょう。

2. 求人票を再確認・再編集する
掲載中の求人票を読み返してみて、「この文章で本当に自分が応募したくなるか」を考えてみてください。
特に以下の3点は、多くの事業所で抜けがちです。
・「なぜこの職場を選んだか」という先輩の声
・「入社後どんなサポートがあったか」の具体
・「未経験でも安心できたエピソード」の有無
求人票は情報を並べるだけでなく、「自分がここで働くイメージを持てるか」が問われています。

3. ホームページの採用情報ページを整備する
意外と見落とされがちなのが、自社のホームページの「採用ページ」です。事業内容は詳しく書いてあるのに、採用情報が数行しかない、という事業所も少なくありません。
以下の要素を盛り込むだけでも、求職者の受け止め方は大きく変わります。
・「1日の流れ」や「働くスタッフの紹介」
・「研修制度」「フォロー体制」
・「見学・面談」への動線(LINEボタン・問い合わせフォーム等)

4. カジュアル面談や見学制度を設ける
「応募=面接」だけでは、求職者にとって心理的なハードルが高くなります。
「見学だけでもOK」
「話を聞くだけの面談歓迎」
といった案内を明記することで、検討中の求職者が一歩踏み出しやすくなります。
特に訪問看護は、病棟経験しかない方にとっては未知の領域です。「まず見てみたい」「雰囲気を感じたい」と思っている方を受け入れる準備をしておくことが重要です。
5. LINE公式アカウントを採用窓口として開設する
LINEを使った採用対応は、求職者の心理的ハードルを下げるうえで非常に効果的です。応募や問い合わせを「メール・電話」でしか受けていない場合、途中で離脱される可能性があります。
LINEでの受付には以下の利点があります。
・即時にメッセージが届くため、返信率が高まる
・「話を聞いてみたい」段階の接点として使いやすい
・応募までのステップを分割できる(例:見学→応募)
紹介会社を完全に排除する必要はありません。ただし、紹介以外にも応募を集める力があれば、採用戦略の選択肢は広がります。
今回紹介したアクションの中で、まず1つからでも始めてみることが大切です。
☑︎ Instagramにこつこつ投稿していく
☑︎ 求人票を適宜点検し、応募状況を分析・改善する
☑︎ 見学制度についてスタッフと相談する
「紹介がなくても応募が来る」という状態は、一朝一夕にはできません。しかし、明日からの小さな取り組みが、数ヶ月後の“紹介に依存しない採用”につながっていきます。

