ChatGPTを活用して「手間なく求人を作れる」「時間をかけずに投稿できる」と感じて導入した訪問看護ステーションは少なくありません。確かに、求人のたたき台を簡単に出力できるという点では大きなメリットがあります。一方で、
「作ったはずの求人に全く反応がない」
「ChatGPTで作成したのに、むしろ応募が減った」
という声も増えてきています。業務の時短化を図ったつもりが、結果として採用の質や成果を下げてしまっているケースも多く見受けられます。
この背景には、「生成された文章を鵜呑みにしてしまう姿勢」や「そもそも採用に対する課題整理が不十分な状態でツールだけ先行している」ことが挙げられます。特に訪問看護という専門性が問われる現場では、現実とのズレが致命的なミスマッチを招きやすく、ChatGPTの活用には注意が必要です。
本記事では、訪問看護ステーションが採用領域でChatGPTを使う際に陥りがちな失敗の共通点を5つ取り上げます。導入検討中の事業所や、すでに活用しているものの成果が出ていないと感じている方にとって、今一度立ち止まって見直すヒントになる内容です。
ChatGPT任せによる採用品質の低下

「とりあえず出力」に頼った結果、誰にも刺さらない文章に
ChatGPTは非常に便利なツールです。しかし、「とりあえず文面を出力して、それをそのまま求人に載せてしまう」という使い方が多くの訪問看護ステーションで見られます。その結果、表面的には整った文章であっても、「誰に向けて」「何を伝えたいのか」が曖昧な内容となり、まったく共感を得られない求人に仕上がってしまうのです。
本来、訪問看護の採用では「どんな看護を大事にしているか」「利用者や家族とどう関わっているか」といった「価値観」の発信が極めて重要です。しかしChatGPTは、その事業所固有の想いや背景を知らないまま文章を生成するため、どこか他人事のような内容になりがちです。
採用ターゲットの設定が抜け落ちたままでは意味がない
求人作成の起点は「誰に届けたいか」というターゲットの設定です。
たとえば、「病院の忙しさに疲れて転職を考えている人」に対しては、「自分のペースで患者さんと向き合える環境であること」や「オンコールの頻度」などが響く要素になります。逆に「子育て中の復職希望者」であれば、「時短勤務の制度」や「急な休みに対応できる体制」の有無が鍵になります。
このような「ペルソナごとの伝えるべき要素」を整理しないまま、ChatGPTに「訪問看護の求人を作って」と依頼しても、抽象的で画一的な文章しか出てきません。実際に
「業務内容」「給与」「休日」
といった項目を網羅しただけの求人が完成し、結果として応募者にスルーされてしまうのです。
「中の人」の言葉が抜け落ちている
多くの求職者がチェックしているのは、待遇だけではありません。「この職場の人たちと一緒に働きたいと思えるか」「ここで自分らしく働けるか」といった、職場の雰囲気や考え方です。つまり、「人」の存在が感じられるかどうかが決め手になります。
ところが、ChatGPTの出力文章は、どうしても無難な文体になりやすく、「誰の言葉か分からない」印象になりがちです。本来であれば、「育児と両立して働いているスタッフの声」や「訪問看護が初めてだったときの戸惑いと成長のエピソード」などが盛り込まれてこそ、読み手の心に響く求人になります。
ChatGPTを使うこと自体が問題なのではなく、「誰の言葉で伝えるか」を明確にしたうえで、その補助として使うことが重要なのです。
一見丁寧な表現が、逆に熱量のなさを伝えてしまうことも
ChatGPTは非常に丁寧で穏やかな文体を使うため、読みやすい文章にはなります。しかし、その丁寧さが裏目に出て、無難で印象に残らない内容になることもあります。特に採用活動では、「あえてはっきり伝える」「合わない人をふるいにかける」ような明確な言葉が必要な場面もあります。
たとえば、「何でも一人で判断したい人には合いません」といったリアルな表現は、ChatGPTの初期出力にはまず出てきません。このような、組織のリアリティを伝える強いメッセージが不足してしまうのも、ツール任せにした結果の1つです。
ChatGPT生成求人が応募につながらない理由

「応募したくなる求人」と「整っている求人」は違う
ChatGPTで作成された求人の多くは、形式的には非常に整っています。職種や業務内容、待遇面、勤務地など、一般的な求人に求められる情報は一通り盛り込まれており、「とりあえず掲載できる形」にはなっていることが多いです。しかし、そうした求人が実際の応募につながっているかといえば、結果は芳しくありません。
なぜか。それは、「読み手が自分ごととして読めない」からです。情報が揃っていても、言葉に温度がなく、読み手が「ここで働く自分の姿」を想像できないまま終わってしまうのです。いわば、『スペックはあるけれど、気持ちが動かない求人』になっているのが実態です。
ChatGPTが生成する平均的な表現がミスマッチを生む
ChatGPTは大量の文章を学習しており、出力される内容も平均的かつ無難なものになりやすい特徴があります。これは、一般的な情報提供には向いているものの、「特定の属性に刺さる」採用文面としては弱さがあります。
たとえば、「アットホームな職場です」「働きやすい環境です」といった文言は、求人として定番ではありますが、言葉の解像度が低く、読み手が具体的なイメージを持つことは難しいでしょう。しかも、それが他の多くの求人にも同じように書かれていれば、読み手の印象にはまったく残りません。つまり、
「ChatGPTが出力してくれた」という安心感が、実は「どこにでもある求人」を量産してしまっているのです。
ストーリーがない求人に人は動かない
採用の現場でよく耳にするのは、「実際に会ってみると良い人だったけど、求人だけ見てたら応募しなかったと思う」という声です。これは裏を返せば、求人の段階で「この職場に会ってみたい」と思わせられていないということです。
とくに訪問看護という業態では、働き方・時間の使い方・人との接し方などが病院や施設とは大きく異なります。そのギャップやリアルを文章で伝えきれていない場合、応募者は職場のイメージを持つことができず、「ここで働くのは不安」と感じてしまいます。
本来必要なのは、数字や制度の紹介ではなく、「どんな背景があって、どんな日常があって、どんな働き方ができるのか」というストーリーです。ChatGPTはその場の整合性を取る文章には長けていますが、「職場の物語を描く」には不向きです。
表面的な情報に終始し感情に届いていない
求人というのは、読み手の感情に届いて初めて行動につながります。たとえば、「子どもが熱を出したとき、遠慮せず早退できる」という一言が、自分の過去の不安と結びつき、「ああ、自分もここでなら働けるかも」と思えるきっかけになるのです。
しかしChatGPTは、感情的な接点をつくるのが苦手です。なぜなら、それは事業所にしか分からない雰囲気やスタッフの想いを前提とした言葉だからです。求職者が「共感する瞬間」や「自分に置き換えられる言葉」を盛り込むには、現場のエピソードやスタッフの体験に基づいた文脈が欠かせません。
つまり、どんなに見栄えのよい文章ができても、そこに「人の気配」がなければ、読み手の心は動きません。
ChatGPT活用時に起きるターゲット不在の問題

「誰に向けた求人なのか」が不明確なまま掲載されていないか?
ChatGPTを使って求人を作成した際、よくある失敗のひとつが「ペルソナ設定を飛ばしてしまう」ことです。つまり、「この求人は誰に向けたものか?」という視点が抜けたまま、文章だけが先に整ってしまう現象です。
採用活動において、求人の文面はペルソナによって大きく変わります。たとえば、ブランク明けで復職を検討している人にとっては、「無理なく慣れていける体制」や「スタッフ同士のサポート力」が重要なポイントです。一方で、病院から訪問看護への転職を考えている人なら、「一人での訪問に不安がないか」や「スキルをどう活かせるか」が関心ごとになります。
こうした前提を設定しないままChatGPTに求人作成を依頼しても、表面的に整った「ターゲット不在の求人」ができあがるだけです。
結果として、読み手の共感も行動も生まれず、応募につながらない原因となります。
「誰か1人」を具体的に想定できていないと言葉の選び方がブレる
採用現場では、「ペルソナ設定」という考え方が重視されます。これは、「たったひとり」の具体的な人物像を思い浮かべて求人をつくるという方法です。たとえば、「現在は急性期病院に勤める30代、子育て中の看護師。日勤のみを希望しており、上司の顔色を気にしながら働く現職に疲れている」といった具合に、相手の生活・不満・価値観をできる限り具体的に描き出します。
このような想定があると、自然と「どう伝えれば響くか」が見えてきます。言い換えれば、読み手の文脈が整うのです。しかしChatGPTは、与えられた指示が抽象的なままだと、「平均的な読み手」に向けた一般論で返してしまいます。その結果、誰の心にも刺さらない無難な文章になってしまいます。
本人の悩みに寄り添えていない求人に意味はない
良い求人とは、単なる情報提供ではなく、「私のことをわかってくれている」と感じてもらえる内容です。そのためには、ターゲットが抱える悩みや違和感を丁寧に言語化することが不可欠です。
たとえば、以下のような問いを深掘りできているかが重要です。
・今の職場で、どんなことにモヤモヤしているか?
・「もう限界かも」と思った瞬間はどんなときか?
・どんな未来を求めて転職を考えているのか?
これらを押さえたうえで、ChatGPTに対して「こんな人に向けた求人を作って」と依頼すれば、一定の効果は期待できます。しかし、最初の段階でこうした視点を持たず、ただ「求人を書いて」と指示するだけでは、読み手の悩みに寄り添う求人は作れません。
曖昧なターゲットでは、戦略がぼやける
ターゲットが不在ということは、採用の戦略もまた曖昧になっているということです。求人だけでなく、SNSでの発信内容、面接の設計、見学の受け入れ対応など、すべての接点で一貫性がなくなります。
たとえば、Instagram投稿で「家庭と両立しやすい職場」を発信していたにもかかわらず、求人票では「土日も対応できる方歓迎」と書かれていれば、求職者は混乱し、応募を控えるでしょう。こうした矛盾を避けるためにも、「誰を採用したいのか」を明確にし、その人に一貫して伝わる言葉を選ぶことが必要です。
ChatGPT導入で失われる採用担当者の思考プロセス

「考える前に作る」ことで見失う本質的な事象
ChatGPTの導入によって、「求人をゼロから作る負担が減った」と感じる担当者は少なくありません。特に忙しい訪問看護ステーションでは、採用業務にじっくり時間を割けない現実もあるため、ツールによる自動生成は大きな支えになります。
しかし、その一方で、「考える前に作れてしまう」ことが、採用活動の根幹を揺るがすリスクにもつながります。たとえば、本来であれば「なぜこの職種を募集するのか?」「今の職場に何が不足していて、どんな人が必要なのか?」といった疑問を通じて、自社の課題や理想像を言語化するはずです。これらの「思考プロセス」を飛ばして、いきなり文章出力に頼ることで、「求人の目的」や「発信すべき軸」が曖昧になってしまうのです。
「書くこと=考えること」という前提の欠落
採用に限らず、「書く」という行為には、「考えを言葉にすることで、見えてくること」が多くあります。たとえば、候補者にどういう雰囲気の人を求めているのか、面接で何を確認したいのか、入職後にどんな役割を期待しているのか。これらを文章にしようとする過程で、初めて自分の認識の曖昧さや抜け落ちに気づくこともあるはずです。
しかしChatGPTを使えば、こうした言語化のプロセスを経なくても、それらしい文章が手に入ります。その結果、担当者自身の考えが深まらないまま、「出力された内容に合わせて納得する」「とりあえず載せるだけ」といった状態に陥るリスクが高まります。
このような流れが定着してしまえば、採用戦略は「場当たり的な対応」に終始しやすくなり、継続的な改善や振り返りが困難になります。
違和感や引っかかりに気づけなくなる
採用活動では、「なんとなく違和感がある」「うまくいっていない感じがする」といった感覚が重要なヒントになります。応募者が減っている、面接の辞退が多い、入職後の定着率が低いなど、こうした状況に対して「どこかにズレがあるのではないか」と立ち止まって考えることが、改善の起点になるのです。
しかし、ChatGPTの出力に依存しすぎると、こうした感覚的な引っかかりをスルーしてしまいがちです。「それっぽい文章になっているから大丈夫」と安心してしまい、現場の声との食い違いに目を向けにくくなります。
「違和感に対して疑問を持つ」「自分の持つ言葉で考えを進める」という姿勢がなければ、採用活動は思考停止に陥ります。
自分の言葉で考え続けることで採用の質を担保
採用担当者の役割は、求人票を作ることではなく、「この職場で働くことの魅力」を誰にどう伝えるかを考え続けることです。ChatGPTはあくまでその補助にすぎず、主導権はあくまで人間側が持たなければなりません。
特に訪問看護の現場では、日々の働き方やスタッフの関係性、患者とのかかわり方など、言葉にしづらい価値観や文化が重要になります。これらを丁寧に言葉にすることこそが、求職者との共感を生み、応募につながるのです。
ChatGPTを使いながらも、「本当に伝えたいことは何か」「この表現で意図が伝わるか」と問い直す姿勢を持つことが、採用活動の質を維持する鍵となります。
ChatGPT導入目的の不明確さによる形骸化

「なんとなく便利そう」で導入すると、成果につながらない
ChatGPTを採用業務に導入した訪問看護ステーションの中には、
「周囲でも使っているから」「話題だから」「効率がよくなると聞いたから」
といった曖昧な理由で利用を始めたケースも少なくありません。しかし、このように目的を明確にしないまま導入すると、最終的には「結局使わなくなった」「成果が出ずやめてしまった」といった形骸化に陥ります。
特に採用という領域は、単なる業務効率化だけでなく、「人と人との接点をどうつくるか」「職場の魅力をどう伝えるか」といった質が問われる場面です。
そのため、導入時に「何を変えたいのか」「どこに課題を感じているのか」「ChatGPTは何のために使うのか」といった視点を持たずに活用しても、本来の意義は失われてしまいます。
「目的の言語化」なしに始めると現場の思考が止まる
採用においてツールを導入する意味は、「思考の補助」や「効率の向上」にあります。しかし、それはあくまでも「考えを言葉にする」「方向性を明確にする」などの「前提が整っている」場合に限られます。
たとえば、「求人文を書くのが苦手だから」「ゼロから考えるのが大変だから」といった理由だけでChatGPTに頼ると、目的と手段が逆転してしまいます。ツールはあくまで手段であり、求人の中で伝えるべき価値や想いは人がつくるものです。
この目的を持たずにツールだけ導入すれば、業務として求人をこなすようになり、「なぜこの表現なのか」「本当にこの伝え方で良いのか」といった疑問が生まれなくなります。それが、採用の停滞や、エントリーの減少につながっていくのです。
使い方が分からないまま義務化されてしまうリスク
ChatGPTのような生成系AIツールは、使い方の幅が広いため、「どう使うか」の方針がないまま現場に浸透すると、逆に負担が増えるケースもあります。たとえば、「ChatGPTでまず求人文を出してからチェックしてください」という運用ルールが定着した場合、担当者は「なぜその手順が必要なのか」分からないまま従うことになります。
これは、業務の自動化どころか思考停止の強制にすらなり得ます。「誰のための求人か」「自分は何を伝えたいのか」といった観点が欠落すれば、ChatGPTを使うこと自体が目的となり、本来の採用力が下がってしまいます。
「どう使うか」以前に「なぜ使うのか」が問われる
採用業務でChatGPTを活用する際にまず問うべきは、「このツールを使うことで、どんな変化を生みたいのか?」という視点です。たとえば、
「担当者によって表現がばらついていたので、軸を統一したい」
「情報を言語化するのが苦手なスタッフの補助にしたい」
「ベースは出力させ、そこから人の言葉で整えていきたい」
といったように、使用目的とその先の活用イメージが言語化されていれば、ツールは有効に機能します。
逆に、「なんとなく便利だから使ってみよう」といった曖昧な目的のままでは、文章の質も定着の仕方も中途半端になり、現場に混乱を招きます。だからこそ、「なぜこのツールを使うのか?」「使って何を良くしたいのか?」という疑問を、導入前にクリアにしておく必要があります。
ChatGPTを採用業務に取り入れる訪問看護ステーションが増える一方で、成果につながらない事例も目立ち始めています。その背景には、目的不明確な導入、ターゲット設定の欠如、そして考えるプロセスの省略が存在します。求人は単なる文章ではなく、「誰に、何を、どう伝えるか」が核心です。ツールに頼る前に、自社が伝えるべき言葉を自ら見出すこと。その上での活用こそが、ChatGPTを「採用強化の支援ツール」に変える第一歩となるはずです。

