「ハローワークに求人を出しているが、応募がなかなか来ない」
「そもそも医療職でハローワークを使うのって有効なのか?」
こうした悩みを持つクリニックの採用担当者は少なくありません。無料で利用できる手軽さがある一方で、「ハローワーク=応募が来ない」「ブラック求人が多い」といったマイナスイメージも根強く存在します。
しかし、結論から言えば、ハローワークは医療職の採用においても“使える”手段です。実際、現在ではオンラインでの手続きが可能となり、地域のハローワークと連携して条件に合う求職者にアプローチできる「リクエスト求人」制度も整備されるなど、利便性と機能性は着実に向上しています。国の公的機関が運営しているため、労働基準法に反するような“ブラック求人”は基本的に登録できません。むしろ、信頼性の高い情報発信の場として一定の評価が得られる環境にあります。
ただし、ハローワークのみで採用成功を目指すのは現実的ではありません。なぜなら、多くの求職者はハローワーク以外にも業界特化の求人媒体や求人サイト、SNSなど複数の情報源を通じて職場を比較検討しているからです。したがって、ハローワークはあくまで「入口の一つ」と捉え、他の媒体と組み合わせて運用していくことが重要です。
本記事では、ハローワークの具体的なメリットを再確認するとともに、なぜ単独運用では成果が出にくいのか、そして他媒体との効果的な組み合わせ方までを、順を追って見ていきます。次章から詳しく解説していきます。
実は進化している、ハローワークの3つのメリット

オンラインでの手続きが可能に
かつては「求人票を出すためにハローワークに行かなければならない」「何度も足を運ぶ必要がある」といった煩雑な手続きが敬遠されがちでした。しかし現在では、ハローワークインターネットサービスを通じて、オンラインで求人登録・編集・掲載申請が可能になっています。
これにより、求人の修正や新規作成のハードルが下がり、タイムリーな情報更新もできるようになりました。また、掲載中の求人の閲覧状況や求職者の検索傾向なども確認できるため、採用活動のPDCAを回しやすくなっています。
求職者に届く「リクエスト求人」制度
ハローワークでは、求人票を出すだけでなく「リクエスト求人」制度があります。ハローワークに登録している求職者で、氏名などを除く求職者情報の公開を許可している人については、「希望職種」や「希望勤務地」「資格」などの情報を企業側の方でチェックし、検索することができます。
検索することで自社の欲しい人材条件にマッチしている求職者が見つかった場合、「リクエスト」を自社のマイページから送ることができ、企業側からも求職者を開拓することが可能です。この機能はいわゆる「スカウト機能」に近いです。従来はハローワークに掲載しても応募を待つだけしかできなかったのですが、この機能によって企業側からもアプローチが可能になったのです。
国が運営するからこその信頼性とコストメリット
ハローワークの最大の特徴として挙げられるのが、国が運営する公的媒体であるという信頼性です。求人広告費が一切かからず、基本的には無期限で求人を掲載し続けることができます。この“無料”という特長は、採用予算に制約のあるクリニックや個人経営の医療機関にとって非常に大きなメリットです。
さらに、国の監督のもとで運営されているため、掲載前には求人票の内容チェックが行われ、法令に抵触する内容は差し戻されます。この体制により、「内容がきちんと審査されている求人である」という安心感が、求職者側にも働くため、
といった信頼形成がなされやすくなります。
実際、医療職を希望する求職者の中には、「地域密着型で、長く働ける職場を探したい」という動機を持つ方も多くいます。そのような層にとっては、企業規模やブランドよりも、「公的な媒体に掲載されている職場であるかどうか」が選択の決め手になることもあるのです。
なぜハローワークだけでは採用が難しいのか?

求職者の行動は多様化している
近年の求職者は、求人を探す際に複数の情報源を組み合わせて利用するのが一般的になっています。特に医療職のように専門性が高く、職場の環境や人間関係が重視される職種では、単一の情報に頼るのではなく、
「どんな雰囲気か」「どんな人が働いているか」「価値観が合いそうか」といった要素まで確認してから応募する傾向が強まっています。
たとえば、ハローワークで求人票を見つけた求職者が、その場で応募することは稀で、多くはその後にGoogle検索をしたり、医療業界に特化した求人媒体や公式サイト、法人のSNSをチェックして情報を比較します。つまり、ハローワークはあくまで“最初の接点”にすぎず、それだけで応募を決めてもらうのは難しいのが現実です。
求人票が埋もれてしまう問題
ハローワークにおける求人の表示順は、「新着順」が基本です。そのため、定期的に更新しなければ表示順位が下がり、閲覧数も減少してしまいます。また、検索機能も限定的で、求職者の目に触れる機会が少ないという課題があります。
さらに、ハローワークでは求人票のデザインや表現に制約があり、視覚的に差別化を図るのが難しい構造となっています。結果として、
多数の求人の中に埋もれてしまい、「内容が良くても読まれない」「どの求人も同じように見えてしまう」といった状況を招いてしまいます。
「比較される前提」での求人設計が必要
求職者は、ハローワークの求人を見た後、「この職場はどういう雰囲気だろう」「スタッフの声が聞きたい」「もっと詳しく知りたい」と思い、他媒体を検索する行動に出ます。ここで、比較対象となるのは、医療業界に特化した求人媒体に掲載されている求人や、写真・動画を活用した採用サイト、SNSで日常を発信している法人などです。
その際に、自社の情報発信が不十分であると、「他と比べて情報が少ない」「雰囲気が見えないから不安」と感じられてしまい、候補から外されるリスクが高まります。つまり、ハローワーク単体では、応募を決断するための材料として不十分であり、比較の土俵にすら立てない可能性があるのです。
「情報の少なさ」が応募離脱の最大要因
ハローワークの求人票は、記載できる情報量が限られているため、給与や就業時間、休日数などの“条件”は載せられても、職場の魅力や働く環境といった“温度感のある情報”を伝えるには不向きです。
になるため、それらが見えないままだと、興味があっても「やめておこう」と判断されてしまいがちです。
さらに、応募の際の流れも「電話で問い合わせる」「履歴書を送る」など、ややアナログで心理的ハードルが高いケースもあります。これにより、「問い合わせだけでもしてみよう」と思ってもらえる確率が下がり、応募につながりにくくなります。
ハローワークを「入り口」と割り切る
こうした状況を踏まえると、ハローワークを採用成功の主戦場と捉えるのではなく、最初の接点に過ぎないと割り切ることが現実的です。むしろ、「ハローワークで見つけた求人に興味を持った人が、他の媒体を通じて自院を深く知り、納得して応募してくれる」という流れを前提にした情報設計が必要です。
つまり、
「どこかで知ってもらう」→「別の媒体で深く理解してもらう」→「安心して応募してもらう」という3ステップを意識した求人戦略が不可欠なのです。
他媒体とどう組み合わせれば効果が出るのか?

求職者の情報収集行動を前提に考える
ハローワークで求人票を出しても、「掲載した=すぐに応募がある」というほど単純な話ではありません。現代の求職者は、複数の媒体を使って情報を集め、自分に合う職場かどうかを慎重に見極めようとします。特に医療職では、雰囲気・チームの人間関係・勤務体制などの定性的な情報が応募の判断材料になるため、限られた情報しか載せられないハローワーク求人票では「応募の決め手」が不足しがちです。
そのため、ハローワークだけで完結させるのではなく、他媒体を組み合わせて「応募までの情報接点」を補完する必要があります。言い換えれば、
ハローワークは“入口”として捉え、そこから「企業理解」と「共感」を深める採用導線の確立こそが、採用成功の鍵になります。
他媒体ごとの役割を明確にする
複数の媒体を組み合わせる際には、それぞれに明確な「役割分担」があることが重要です。ただ情報を拡散するのではなく、「この媒体では何を伝えるか」「どこで決断してもらうか」を想定した動線創りをすることで、応募者の動き方に沿った採用動線を作ることができます。
たとえば、以下のような役割分担が考えられます。
・ハローワーク:求人との“最初の出会い”。職務内容や勤務時間など条件を知ってもらう場。
・業界特化の求人媒体:幅広い求職者層への露出と「他の求人との比較」ステージでの判断材料。
・自社採用サイト:職場の雰囲気や代表メッセージ、スタッフの声など、応募を後押しする詳細情報の提示。
・SNS(Instagram・Youtubeなど):「人となり」や「日常の雰囲気」を伝え、応募前の共感と安心感を育てる役割。
これらを分断せず連携させることで、「認知→興味→比較→応募」の自然な流れが生まれます。
併用戦略で得られる質の高い応募
他媒体をうまく組み合わせて運用している医療機関では、「応募者の質が上がった」「面接でのミスマッチが減った」といった変化を実感しているケースが多くあります。これは、応募者が複数の情報源で納得したうえで応募しているため、職場理解が深まっており、実際に入職後の定着率にも好影響を与えます。
「とにかく母集団を増やす」のも大切ですが、「自社に合う人と出会う」ための導線設計が、今の採用には欠かせません。その意味で、ハローワークを“きっかけ媒体”として位置づけ、その後の流れで応募者との関係性を育てていく設計こそが、他媒体との併用の真価なのです。
導線全体で「一貫した情報」を発信する
求職者がハローワーク、業界特化の求人媒体、採用サイト、SNSなど、複数のチャネルで情報を見たときに、「言っていることがバラバラ」「何を大切にしている職場なのか分からない」と感じてしまうと、信頼を失うことになります。したがって、媒体ごとの表現方法やフォーマットは違っても、「伝えたい価値観」「一緒に働きたい人像」「現場の日常」などの根幹部分は、全媒体で共通している必要があります。
媒体間で情報が食い違っていないか、求人票の言い回しに温度差がないかを定期的に見直し、媒体ごとの役割を明確にしたうえで「伝えたいことを一貫させる」ことが、応募者の信頼獲得につながります。
明日からできる、ハローワーク求人の見直しポイント

「読みたくなる求人票」に書き換える
ハローワークの求人票は、画一的なフォーマットであるがゆえに、「どれも同じように見える」という印象を与えてしまうことが少なくありません。だからこそ、その中で「読みたくなる一文」を書けるかどうかが、反応を左右します。特に重要なのは、タイトルと冒頭の仕事内容欄です。
多くの求人票では、「看護師」「歯科衛生士」など、職種名を機械的に並べているだけの表現が見られますが、これでは求職者の関心を引くのは難しいでしょう。そこで、たとえば
など、求職者の目線に立った具体的な表現に変えることで、読み手の動きを生み出すことができます。
「何をする仕事か」ではなく、「どんな働き方ができるのか」を伝える視点を持つことが、求人票の表現力を一段引き上げます。特に国家資格採用では、その職種で何をするのかは大体想像できます。アピールしたいことを含むようにしましょう。ハローワークの求人票では各項目で文字数が決まっていますが、比較的自由度高く記載できます。職種名であれば28文字、仕事内容は360文字、求人に関する特記事項は600文字と決まっています。書ける部分に自社のアピールポイントを書くように心がけましょう。
【ハローワークの求人の書き方例はコチラ】
「抽象表現」から「具体的エピソード」へ
といった言葉は、多くの求人票で見られる表現です。しかし、これらの言葉はあまりに抽象的で、求職者にとっては具体的なイメージがわきにくく、信頼性も高まりません。むしろ、他の職場と差別化できない要因にもなりえます。
そこで意識したいのが、「職場の実態が伝わる具体エピソード」の記載です。たとえば、
といった一文は、実際の運用が見えるだけでなく、「自分も安心して働けそう」と感じさせるリアルさがあります。
抽象的なキーワードを並べるのではなく、1つでも具体的な出来事を紹介することで、求職者の不安や疑念を払拭しやすくなります。
「リクエスト求人」を積極的に活用する
ハローワークの強みの一つである「リクエスト求人」は、求人を出して“待つ”だけではなく、“届けてもらう”ための仕組みです。
リクエスト求人を活用し、他の求人媒体と同様にダイレクトリクルーティングを行うことが出来ます。積極的に活用し、求職者との接点を作るように心がけましょう。
リクエスト求人は、制度そのものを知らなければ活用できません。そして、活用するだけで確実に応募が増えるわけではないものの、「接点を自ら作る」という意識を持つことが、採用を受け身から前向きな活動へと変える第一歩になります。他媒体と同じように、能動的な出会いをつくるための選択肢として、リクエスト求人を最大限活用しましょう。
外部導線を整えて応募への不安を減らす
ハローワークの求人票だけでは伝えられる情報量に限界があります。そのため、応募者が「この職場、気になるけどちょっと不安だな…」と感じたときに、不安を解消できる補足情報の導線を用意しておくことが重要です。
たとえばWEB検索でハローワークの求人を見つけたとしましょう。その後求職者はどうするのか?ホームページを検索するのか?SNSで検索するのか?自社の求人と同様の求人を検索するために、求人媒体を検索するのか?求職者の動きはどうなるのかを想定して「求職者が欲しい時に欲しい情報が入手できる」ような動線を構築しましょう。
掲載後の「運用習慣」も成果を左右する
ハローワークの求人票は、一度出して終わりではありません。新着順で表示される仕組みがある以上、定期的な更新や内容の見直しを行わないと、求職者の目に触れる機会がどんどん減っていきます。また掲載の翌々月末で自動停止しますので再度申請が必要になります。
少なくとも月1回は内容をチェックし、必要に応じて更新する運用を習慣化することで、「出しっぱなしで応募が来ない状態」を避けることができます。また、更新時には、職員からのフィードバックをもらいながら改善点を洗い出すのも効果的です。
ハローワークは、正しく使えば医療職採用の有効な手段となり得ます。重要なのは、「無料だから」「昔ながらだから」といった先入観にとらわれず、制度の特性を理解し、他媒体と組み合わせて活用する視点を持つことです。まずは求人票の見直しとリクエスト求人の活用から一歩踏み出してみてください。

