求人を出しても誰も来ない?医療・介護の採用が“詰む”3大パターン

採用に悩む訪問看護師

「求人を出しているのに応募がまったくない」
「応募者があっても辞退される」
「媒体を変えても応募数や反応に変化がない」

──医療・介護業界でこうした採用の悩みは、もはや例外ではなくなっています。特に人手不足が常態化している昨今、採用が機能しなければ、現場の運営に直接的な支障が出てしまうケースも多く見受けられます。

とはいえ、これらの課題の根本を「タイミングが悪かった」「うちの法人は人気がないから」と捉えるのは本質的な理解とは言えません。採用が進まない背景には、業界全体で共通する“3つの詰まりパターン”が存在しており、そこに気づけていない現場が多いのが実情です。

この記事では、医療・介護現場における採用活動がうまくいかない構造的な理由を解き明かし、そこから抜け出すために必要な視点と、具体的な動き方を提示していきます。今、自分たちの採用がどのパターンに該当するのか。ぜひ一度、冷静に立ち止まって見直すきっかけとしてご覧ください。

目次

「経験者だけ採る」は、もはや採用戦略にならない

現場でよくある“即戦力依存”の採用

「即戦力が欲しい」──医療・介護業界の採用現場で、もっとも頻繁に聞かれるニーズの一つです。例えば「訪問看護経験が3年以上ある方」「介護福祉士として現場経験がある方」といった条件を前提に求人を出す法人も多く見られます。

理由は明快です。

✕ 新規立ち上げで余裕がない
✕ 教育体制が整っていない
✕ 早期戦力化が求められる

──こうした現場状況において、未経験者の受け入れはリスクに感じられます。だからこそ「とにかく経験者が欲しい」となりがちです。

しかし実際には、その「経験者」はどれほど存在しているでしょうか。訪問看護や訪問介護の経験者数は限られており、都市部・地方を問わず、慢性的な人材争奪が発生しています。競合がひしめく中で、同じ土俵で同じ人材を取り合うのは、言うなれば“確率の低い一点狙い”です。求職者側もまた、選択肢が豊富にある状況下で「魅力を感じなければスルー」する自由を持っています。

「経験者前提」では採用が持続しない

仮に運良く経験者が採用できたとしても、その後の定着や長期活躍にはまた別の条件が求められます。そもそも即戦力に偏重する採用方針は、長期的な組織づくりとは相容れません。経験者は確かに現場を一時的に回す手助けになりますが、スキルや価値観が組織とマッチするとは限らず、数ヶ月で辞めてしまうケースも後を絶ちません。

一方で、未経験者を前提に育成の仕組みを整えている法人では、安定的な採用活動ができている事例も少なくありません。「自分たちはどんな人を迎え入れ、どう育てていけるか」という視点で採用を見直すことで、狭すぎる採用条件に縛られずに済むのです。

採用活動に“育成”という前提を組み込む

では、具体的に何を見直せばいいのでしょうか。まず必要なのは、「未経験者でも活躍できる職場環境」の可視化です。研修内容、OJTの流れ、先輩のサポート体制、初期業務の範囲などを言語化し、候補者に対して具体的なイメージを持たせることが重要です。

また、「うちには教育体制がない」という声もありますが、それは“整っていない”のではなく“言語化されていない”だけというケースも多くあります。実際には、日々の業務の中で先輩職員が自然に教えていることがあるならば、それを「仕組み」として説明可能な形にまとめることで、未経験者への不安を軽減できます。

加えて、SNSや求人ページで「未経験から成長したスタッフの実例」を発信することで、「自分にもできそう」という感覚を持ってもらえる導線になります。こうした発信は、経験者だけを対象にするよりも、より広い層に届く可能性を持っています。

Next Action(明日からできること)
・未経験者の受け入れ前提で、教育体制のマニュアルやOJT項目を洗い出す
・既存スタッフの成長エピソードを募集し、求人やSNSで紹介する
・求人票に「未経験からでも安心して始められる理由」を具体的に記載する
・見学や説明会の場で、育成サポートの実態を丁寧に伝える
・面接評価項目に「学ぶ姿勢」「価値観の一致」などを追加する

求人票だけで“選ばれる”時代は終わった

条件提示だけでは動かない時代の求職者

かつては「給与」「勤務時間」「勤務地」といった条件を提示すれば、ある程度の応募が見込める時代がありました。しかし、今の医療・介護業界の求職者は、条件面だけでは動かなくなっています。とくにコロナ禍以降、職場選びにおいて「安心感」「人間関係」「職場の雰囲気」などの感情的な要素が重視されるようになりました。

実際、「条件は悪くないはずなのに応募が来ない」という声が上がる事業所では、求人票の内容がテンプレートのままであったり、どこの会社にも当てはまるような文面で終始していたりするケースが少なくありません。求職者が知りたいのは、「その条件の中で、実際に自分がどう働くのか」「どんな空気の職場なのか」といった、よりリアルな情報です。

求人票は“情報”より“感情”に触れる構成がカギ

「この職場、自分に合いそうかも」

──そう感じさせるためには、情報よりも“共感”が先に立ちます。実際に働いているスタッフのエピソードや、日常の様子、制度の活用例などがあることで、応募者は「自分でもやっていけそう」という感覚を得られます。

たとえば、

「育児と両立できている看護師の一日」
「新人スタッフが3ヶ月で自信を持てた理由」
「コロナ禍でも孤独を感じなかった職場の工夫」

など、リアルなストーリーが共感を呼びます。こうした情報は、給与や休日日数の羅列よりも、はるかに強く印象に残ります。

また、制度紹介だけではなく、その制度が「どう役立ったか」を伝えることも重要です。たとえば、「直行直帰OK」ではなく「子どもの急な発熱でも一度帰宅できた」という具体的な事例のほうが、求職者にとっての解像度が上がります。

求人票は“単体”ではなく“導線の一部”

さらに、求人票単体で完結させようとする考え方自体を見直す必要があります。今の採用市場では、LINE公式アカウント、Instagram、現場スタッフの紹介動画など、複数の接点を持つことが主流になりつつあります。求職者が求人票にたどり着く前後の「接点」や「印象」の蓄積が、応募の最終判断に影響しているのです。

実際、「SNSで雰囲気を見てから応募した」「スタッフの声を見て安心できた」という声も多く、求人票は“ゴール”ではなく“入り口”の一つにすぎません。医療・介護業界においては、職場の空気や人柄の伝達が重要であるため、文字情報だけでは伝わらない部分をどう補完するかが問われます。

Next Action(明日からできること)
・求人票に、実際のスタッフの1日や仕事風景をエピソード形式で盛り込む
・「制度紹介」ではなく「制度のおかげで助かった事例」に変換して伝える
・SNS投稿で「働く人の声」「日常のひとコマ」を定期的に発信する
・LINEやDMで気軽に質問できる導線を整備し、心理的ハードルを下げる
・求人票とSNS・採用ページの発信情報を一貫させる

採用を“現場の片手間”にしていないか

応募対応が遅れる現場、なぜ起きるのか

医療・介護業界では、採用業務が現場スタッフの「ついで仕事」になっているケースが少なくありません。本来であれば、応募者対応は時間を置かずに即日行うのが理想ですが、実際にはこうした対応が2〜3日後になってしまうことも珍しくありません。理由は単純で、日々の業務が忙しく、採用を最優先できる人材がいないからです。

また、面接でも準備不足が目立つことがあります。評価基準が明確でない、面接官によって質問内容がばらつく、感覚頼りの合否判断がされる。こうした属人的な対応が続けば、せっかくの応募者が不安を感じて離脱することにもつながります。

加えて、まれに見られるのが「来てくれるなら誰でもいい」という空気感です。応募者に対して真剣に向き合うのではなく、「とにかく採れればOK」という姿勢が見透かされれば、優秀な人材ほどその職場を避けます。採用は“現場が片手間でやるもの”ではなく、事業の将来を左右する“経営レベルの活動”であるべきです。

採用には『段取り』と『言語化』が必要

では、どのように現場任せの状態を脱却するべきでしょうか。第一に重要なのは、応募対応や面接対応の「段取り」と「役割」を明確にすることです。

例えば、以下のような設計が考えられます:

・応募が来たら誰が最初に連絡するのか
・どのタイミングで面接日程を調整するのか
・面接は誰が担当し、どんな観点で評価するのか

こうした「一連の流れ」をあらかじめ定めておくことで、対応スピードが上がり、応募者にとっての印象も良くなります。また、評価の観点についても、「スキル」だけでなく「価値観」や「人柄」など、カルチャーフィットを重視することで、ミスマッチのリスクを下げられます。

さらに、面接官ごとのばらつきを防ぐため、面接時の質問項目やチェックリストを標準化することも有効です。こうした情報を共有することで、誰が対応しても一定の質を担保することができます。

小さな役割分担が、大きな差を生む

採用専任担当がいない現場でも、役割分担と見える化を徹底することで、体制は整えられます。

例えば、

・「応募初期対応は事務」
・「面接調整は管理者」
・「面接官は経営者と現場の責任者の2名体制」

といったように、細かく区切った分担でも十分に効果があります。

さらに、応募者対応をLINEなどでカジュアルに行えるようにすることで、現場の負担を軽減しながらスムーズな導線設計が可能になります。重要なのは、採用を属人化させず、組織全体で“仕組み”として捉えることです。

Next Action(明日からできること)
・応募〜面接〜内定までの対応フローを紙または共有ツールで可視化する
・面接時の質問リストと評価シートを全面見直し、共通化する
・応募者対応にLINEやチャットツールを導入してレスポンス速度を向上させる
・応募者対応の役割をチーム内で明確にし、引き継ぎ可能な体制をつくる
・「カルチャーフィットを見る」観点での面接評価項目を新設する

「うちは人気がないから」は本当か?

応募が来ない理由を「自責」で考えられているか

「うちは知名度がないから…」
「規模が小さいから応募が来ないんです」

──医療・介護の現場で、採用がうまくいかない理由をそう表現する担当者は少なくありません。一見、謙虚な姿勢のようにも見えますが、実はこのような考え方こそが、採用活動の停滞を引き起こしている大きな要因の一つです。

本当に「人気がないから」応募が来ないのでしょうか。実際には、同じ地域・同じ規模の法人でも、応募が安定して集まっている事業所は存在します。つまり、要因は人気の“あるなし”ではなく、情報の「伝え方」や「届け方」の違いである可能性が極めて高いのです。

求職者が「知らない」のではなく「響いていない」

応募がない場合、それは「知られていない」ではなく、「響いていない」状態と捉える必要があります。現代の求職者は、求人サイトやSNS、口コミなど多様なチャネルで情報を得ていますが、その中で「自分に関係がある」と感じる情報にしか反応しません。

つまり、どれだけ制度や待遇が整っていても、「それが誰に向けて、どんな価値を持つのか」が伝わらなければ、見向きもされないのです。特に医療・介護業界では、働く動機やライフスタイルが多様化しているため、「この職場なら自分の価値観に合うかも」と思ってもらえるかどうかが鍵になります。

例えば、単に「有給取得率が高い」ではなく、「子どもの運動会に参加できる安心感がある」と伝える方が、生活者視点での共感を得やすくなります。

自社の魅力を“再発見”することから始める

採用活動の立て直しにおいては、「魅力をつくる」のではなく「魅力を見つけ直す」ことが第一歩です。現場のスタッフが日々どんな想いで働いているのか、どんな瞬間にやりがいを感じているのか。こうしたリアルな声の中に、他社にはない“自社だけの価値”が埋もれている可能性があります。

実際に、見学や面接で初めて来訪した求職者が「思ったより雰囲気がよかった」と感じることもあります。それは、普段の求人や広報で「リアル」を十分に伝えきれていないからです。

たとえ大手法人でなくても、「ここなら自分もやっていけそう」「このチームで働きたい」と思わせる力があれば、選ばれる理由になります。大切なのは、伝えるべき相手を絞り込み、その人に“刺さる言葉”で発信することです。

Next Action(明日からできること)
・応募者アンケートで「応募理由」や「良い印象だった点」をヒアリングする
・現場スタッフに「この職場の好きなところ」を聞いて一覧化する
・求人票やSNSで、“働く人の価値観”や“やりがい”を言語化して紹介する
・採用ページの冒頭に「この職場に合う人/合わない人」を明示する
・同業他社の求人と自社の違いを比較し、訴求ポイントを見直す

採用は仕組み化すべき

求人は「打ち上げ花火」ではなく「仕組み」で考える

ここまでの4つのセクションで見てきたとおり、医療・介護業界における採用活動の詰まりには、いずれも『採用戦略が不明瞭』という共通点があります。経験者ばかりを狙い、テンプレの求人票に頼り、現場任せで回し、応募がない理由を外部に求める──これらはすべて「採用をなんとなく行っている」ことに起因します。

しかし、採用は運や勘ではなく、「誰に、どんな価値を、どう伝えるか」を計画的に積み上げていく“組み立て”のプロセスです。求人を出して終わりではなく、応募が来るまでの一連の流れと、そこに必要な情報・導線・対応の全体像を描き切る必要があります。

採用が“詰む”のは、行動が足りないからではなく、行動の順序や中身が噛み合っていないからです。

採用活動の“流れ”を可視化する

では、採用を「組み立てる」とはどういうことか。それは、以下のような要素を順番に確認し、仕組みとしてつなげていく作業です。

【誰を採りたいのか】
 → 現場の声をもとに、理想とする人物像を具体化する

【その人は今どこで何に悩んでいるのか】
 → 現在の職場やライフスタイルを想像し、不満やモヤモヤを言語化する

【自社ならどう変われるのか】
 → 制度や働き方、チームの雰囲気を通じて解決できる未来を描く

【どんな順番で情報を届けるのか】
 → SNS→求人票→見学→面接など、接点を段階的に設計する

【誰が、どのフェーズを担うのか】
 → 応募対応・面接・クロージングなどを分担し、属人化を防ぐ

これらがつながって初めて、「再現性のある採用活動」が実現します。個人の頑張りやタイミングに依存しない、持続可能な形が重要です。

採用を“プロジェクト”として位置づける

採用は一人の担当者が背負い込むものではなく、現場全体で推進する“プロジェクト”として位置づけるべきです。リーダーが旗を振り、メンバーが役割を持ち、成果を可視化しながら改善を重ねていくことで、初めて「続く採用」が可能になります。

たとえば、毎月1回採用ミーティングを設け、応募数や面接通過率、辞退理由などを確認するだけでも、課題が共有され、改善の視点が生まれます。採用を「イベント」から「プロセス」に変えることで、組織としての強さも向上していきます。

Next Action(明日からできること)
・採用活動の流れ(ターゲット〜クロージング)をフローチャート化する
・3ヶ月ごとに採用振り返りミーティングを設定する
・採用責任者と現場の橋渡し役を明確にし、業務を分担する
・SNSやLINEなど、応募前の接点づくりを「採用導線」として設計する
・「求める人物像」を事業所内で共有し、チームで共通認識を持つ

採用が“詰む”背景には、経験者偏重・求人票依存・体制不備という共通の落とし穴があります。しかし、これは努力不足ではなく「採用の流れが組み立てられていない」ことが原因です。大切なのは、誰に・何を・どう届けるかを段階的に設計し、組織全体で推進すること。まずは、自分たちの採用がどのパターンに陥っているかを見直し、小さな一歩から仕組みづくりを始めてみてください。それが、持続可能な採用の第一歩となります。


監修者:権守 泰純(Yasuyoshi Gonmori)

株式会社HOAP代表取締役。2022年に創業し、医療・介護業界に特化した採用支援事業を展開。現在は訪問看護・訪問診療訪問歯科など在宅分野からクリニックなど、業界特化で採用支援事業を展開。


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