ChatGPT導入が進まない理由は?採用・定着に効かないAI活用の共通点

chatGPTで求人を書く歯科衛生士

「ChatGPTで求人が作れるらしい」
「AIで定着率が上がる仕組みをつくりたい」

——こうした声から、生成AIを採用や人材領域に取り入れようとする動きが増えています。

特に医療・介護・歯科業界では、経営者自らが採用業務を行っていたり、採用担当が複数業務を兼ねていることも多く、「業務の負担を減らせるなら」と導入を決める法人も少なくありません。

しかし、いざ導入してみると、「結局ほとんど使われていない」「そもそも現場が関心を示さない」といった“形だけの導入”に終わってしまうケースも少なくないのが実情です。

導入はされたのに、誰もログインしない。最初は触ったけれど、2回目以降は忘れられていく。その背景には、AIそのものの性能ではなく、“現場の見え方・関わり方”に原因があることが多くあります。

この記事では、生成AIを採用・定着支援に活用しようとしたものの、「結局使われなかった」状況に共通する理由を探っていきます。

「なぜ動かなかったのか」ではなく、「どうすれば現場が自然に使い始めるのか?」という視点から、AI活用を“業務に根づかせるためのヒント”を探っていきます。

目次

便利そうだけど、採用の何に使えばいいか分からない

「ChatGPTが便利らしい」から始まって、動きが止まる

生成AIの話題が広がるなかで、「とりあえず導入してみた」という法人は少なくありません。

採用や定着に課題を抱えている現場ほど、「何か新しいことを始めないと」という空気があり、ChatGPTやAIによる支援ツールへの期待が高まりやすい傾向にあります。

しかし実際には、こうした導入が“話題止まり”で終わってしまうケースが多く見られます。

特に採用の場面では、

× 何に使えるのかが明確でない
× 誰がどう活用するのかが共有されていない
× 業務との関連が曖昧なまま導入されてしまう

といった背景から、「結局誰も動かない」という状態に陥りやすいのです。

「使えること」と「使う場面」は別の話

ChatGPTに「求人を作って」と打ち込めば、たしかにそれらしい原稿が出てきます。しかし、採用現場では次のような“つまずき”が起こりがちです。

・「このまま載せていいのか判断がつかない」
・「社風や特徴が反映されていない気がする」
・「結局、自分で直す部分が多くて負担感が残る」

つまり、「AIが使える」ことと「現場で自然に使う」ことのあいだには、大きなギャップがあるということです。

このギャップを埋めるためには、「どの業務で、どんな風に、誰が使うのか」という使用イメージの具体化が欠かせません。

「どの場面で役立つのか」が見えないと、現場は動かない

たとえば、次のような問いに答えられないまま導入されているケースが多く見られます。

経営者

・求人票の作成か?
・面接時の逆質問の準備か?
・採用広報のキャプションづくりか?
・入職者への声かけ文の例か?
・応募者対応メールの叩き台か?

こうした「具体的な場面」に落とし込まれない限り、現場のスタッフは

スタッフ

「で、これって結局何に使えるんだっけ?」

という問いを持ったまま、手をつけられずに時間が過ぎていきます。この状態が続くと、ツールへの印象は“便利”から“よく分からないもの”に変わり、そのまま利用が止まってしまいます。

「使い方」ではなく「使い道」から共有する

導入初期にありがちなのが、「ログイン方法」「チャットの打ち方」「プロンプトの書き方」など、操作面の説明に力を入れすぎてしまうパターンです。

しかし、操作が分かったところで、「どこで使えばいいか」が見えていなければ、その知識は現場では使われません。重要なのは、使い方の前に“使うシーン”を見せることです

たとえば:

〇 「これ、求人を5分で仕上げるときに便利だったよ」
〇 「この前、志望動機の添削に使ってみたらすごく良かった」
〇 「応募対応メールが毎回同じで悩んでたけど、叩き台作るのに使えるよ」

といった、リアルな使用体験が共有されることで、「あ、自分もそれやってみようかな」という連鎖が起きていきます。

最初の“動き出し”は、「誰かが試したあと」に始まる

現場でAIが根づかないのは、技術のせいではなく、「それを使った人の姿」がまだ見えていないからかもしれません。最初に動くのは、特別な研修でも、操作マニュアルでもなく、ちょっとした使用例の共有です。

そこからようやく、「自分たちもやってみようか」という空気が生まれ始めます。

忙しくて学ぶ余裕がない

「時間ができたら触ってみる」──その“時間”はいつ来るのか?

生成AIの導入を進めようとした際に、現場からよく返ってくる声があります。

・「便利そうだけど、今は手一杯で…」
・「時間ができたらやってみます」
・「操作を覚えるのはまた今度で…」

とくに医療・介護・歯科の現場では、採用や人材定着に関わる担当者がプレイングマネージャーであることが多く、日々の業務に追われる中で“ツールを学ぶ”という行為は優先順位が下がりがちです。

どれだけ良いツールでも、「学ぶ側に時間的・心理的余裕がない状態」では定着しません。

忙しい現場でAIを活用するには、“学ばなくても使える状態”に近づける工夫が必要です。

説明会やマニュアルでは「使われるようにならない」

AI導入時に行われがちなのが、「社内説明会」や「操作マニュアルの配布」です。もちろん情報提供は重要ですが、それだけで現場が動き出すことはほとんどありません。

というのも、現場の本音はこうです:

・「読む時間がない」
・「説明会で覚えても、1週間後には忘れてる」
・「そもそも“必要性”を感じていないから覚えようとしない」

つまり、“覚えられない”のではなく、“覚える理由がない”のです。
この状態では、操作説明をどれだけ丁寧にしても「やってみよう」という行動にはつながりません。

「学ばなくても使えるか」に焦点を移す

では、どうすれば忙しい現場でもAIが使われるようになるのか?
ポイントは、「学ばせよう」とするのではなく、「触ったら自然に進む」状態に近づけることです。

たとえば:

〇 ログインしたら、すぐに「例」が出てくる
〇 用途別のテンプレートが最初から用意されている
〇 入力例や“そのまま使えるフレーズ”が先に表示される

こうした工夫によって、「とりあえずやってみる」ハードルが下がると、習得の必要性を感じる前に“使った実感”が先に生まれます。

「これって、いつ使えばいいの?」という問いが多い職場ほど危ない

導入直後の現場でよく聞かれるのが、「これ、いつ使うのが正解ですか?」という質問です。
この問いが出る背景には、

・“使っても使わなくてもいいもの”として認識されている
・既存の業務フローとの接点が曖昧
・「触る余裕がない=触る理由がない」と感じている

という状況があります。

AIが「仕事の中にあるもの」ではなく、「仕事の外にあるもの」として認識されてしまうと、一度距離ができたあと、再び近づくことはほとんどありません。

「試した人」が“見える化”されていないと、他が続かない

忙しい職場では、誰かが使って効果を感じていても、それが可視化されていなければ“なかったこと”になります。

💡 「この前、求人作成で使ってみたよ」
💡 「志望動機の添削、これで済ませた」
💡 「人事宛てのLINE返信、AIで叩き台つくったらすごくラクだった」

こうした“ちょっとした感想”が現場に流通することで、「自分もやってみようかな」という意識が生まれてきます。
重要なのは、最初に試した人が「成果」ではなく「実感」を共有することです。


現場が「学ぶ」のではなく、「気づく」状態をどうつくるか

結局のところ、忙しい現場でツールが定着するかどうかは、「覚えたから使う」ではなく「使ってみたから覚える」順序をつくれるかにかかっています。

“学ばなければ使えないツール”は、使われなくなる。
“触ったら前に進むツール”は、自然に残っていく。

その視点で、AIの導入設計を見直す必要があります。

“できる人”がやって終わる採用DX

一部の人が「うまくやってる」だけでは、変化は広がらない

ChatGPTなどの生成AIを業務に導入すると、ごく一部の職員がすぐに使いこなし始めることがあります。

ITリテラシーの高いスタッフ、文章作成が得意な人、もともと新しいツールに関心のある職員などがその典型です。

導入担当者からすれば、「とりあえず使ってくれる人がいてよかった」と安堵したくなりますが、実際にはこの段階で安心するのは危険です。

その理由は明確で、「誰かが使っている」ことと「チームで使いこなしている」ことのあいだには、決定的な違いがあるからです。

属人化が始まると、共有が止まる

「AI活用に強い人」が出てくること自体はポジティブなことですが、それがそのまま“属人化”につながってしまうケースは多くあります。

たとえば次のような状態です:

・求人は〇〇さんが作ってくれる
・Instagramのキャプションは得意な人に任せよう
・法人概要は誰かがChatGPTで整えてくれているらしい

一見スムーズに見えるこの流れは、実は“使っている人の中にしか情報が残っていない”というリスクをはらんでいます。

このような状態では、人が変わった瞬間にナレッジも消え、AI活用がリセットされてしまうのです。

「教える」のではなく「見せ合う」ことから始める

この属人化を防ぐには、「得意な人が教える」のではなく、「誰がどんな風に使っているかを“見える化”する」ことが効果的です。

たとえば:

・求人をAIで作成した画面をスクショで共有する
・AIに頼んだプロンプトとその出力結果をセットで紹介する
・面接前の質問案をChatGPTで作ってみた結果をSlackに流す

こうした“やってみた記録”が日常的に共有されると、「思ったより簡単そう」「自分でもできるかも」という空気が生まれ、他の職員の心理的ハードルが下がっていきます。

「すごい人がいる」より「みんながちょっとずつ使っている」が強い

AI活用において重要なのは、“一部の優秀な人”が使いこなしている状態よりも、全員が“最低限の使い方”を共通言語として持っている状態です。

  • 誰がどのタイミングで使っているかが共有されている
  • 「この用途ならChatGPTでやってみるか」が自然な選択肢になっている
  • 得意・不得意を問わず、使った経験そのものが組織内に蓄積されている

こうした土壌がなければ、ツールの導入は「一時的なブーム」で終わってしまい、業務改革にも人材定着にもつながりません。

小さな経験が重なることで「文化」になる

AIの導入が本当に意味を持つのは、使い方が“属人的なスキル”ではなく“みんなで使える当たり前”になったときです。それを実現するには、

〇 初回の成功体験を“成果”ではなく“共有”に変える
〇 得意な人が“教える役”になるのではなく、“見せる存在”になる
〇 1回使っただけの人にも「どうだった?」と聞いてみる

といった小さな行動の積み重ねが、AIを職場に定着させる鍵となります。

業務フローに埋め込まれていない

「使いたい人が使えばいい」では、誰も使わなくなる

AIツールの導入時、「自由に使ってOKです」「活用は各自の裁量で」というスタンスが取られることがあります。

一見すると柔軟で開かれた導入に見えますが、医療・介護・歯科の現場のように多忙かつ明確な優先順位で動いている環境では、“裁量任せ”のツールは次第に使われなくなるのが現実です。

なぜなら、日々の業務が“ルーティン優先”で回っている現場においては、「わざわざ開かないといけないツール」は、“やらなくても怒られないこと”として後回しにされるからです。

「日常業務の中に入っていないもの」は、習慣にならない

ChatGPTを採用業務で活用する場合、たとえば以下のような場面が想定されます。

・求人票の作成・添削
・面接前の逆質問リストの準備
・応募者対応メッセージのたたき台作成
・採用広報投稿の下書き生成
・マニュアルの文章化

これらは確かに活用効果が高い場面ですが、現場の業務フロー上に「ここでAIを使う」と決まっていなければ、まず開かれることはありません。

たとえば、「求人票はExcelで作って、それをコピペしてアップロードする」という流れが固定されていれば、そこにAIが割り込む余地はないのです。

組み込むには「行動ベースでの設計」が必要

AIを業務の中に自然と組み込むには、「どのタイミングで」「何のために」「誰が使うのか」が行動レベルで定義されている必要があります。

たとえば:

〇 求人票を作るときは、まずChatGPTでたたき台をつくってから修正する
〇 面接前に必ず「逆質問案」をAIで出してみる
〇 応募者対応メールは、雛形ベースではなくAIから生成した例文を選ぶ

こうした「やり方のルールではなく、動き方の流れとして組み込まれている」状態が、AI活用の定着には不可欠です。

明日からできる4つのアクション

①「サンプルが先」の共有を始める

どれだけ良いツールでも、頭の中で「便利らしい」と思っている段階では、行動にはつながりません。特にAIのように「触ったことのない未知のもの」に対しては、まず“できあがったもの”を見ることで安心感が生まれます。

人は「それを使った結果」が見えたときに初めて、「自分にもできるかも」と感じられるからです。いきなりプロンプトや設定の話をするよりも、「これがAIで作った求人文です」と見せる方が、よほど効果的です。

・AIで生成した求人文・逆質問案の実物をまず見せる
・「どうやったか」より「何が出てくるか」を共有する
・LINEやグループウェアで“使用例”が自然に流れる場を用意する

特に最初の段階では、上手く使いこなすことではなく「とりあえずやってみたい」と思わせることが重要です。そのためにも、サンプルを起点にした共有は“AIを文化に変える最短距離”です。

②「使ってどうだった?」の感想を可視化する

AI活用の初期段階においては、正解も完成形も存在しません。それだけに、「やってみたこと」そのものを発信することが、チームにとって非常に価値ある共有になります。

完璧な結果や成功事例よりも、「ちょっと使ってみたら意外と簡単だった」「ここまではAIに任せられそう」といった実感ベースの言葉が、人を動かすのです。「ちゃんとできたら報告しよう」ではなく、「途中でも感じたことを話す」姿勢が、文化の根を広げていきます。

・成果ではなく、“試してみた感想”を短く発信
・ミーティング内で「使ってみた人いる?」と声をかける
・小さな成功も「結果」ではなく「行動」として共有する

人は、他人の“実績”よりも“挑戦の雰囲気”に引き込まれます。「すごい人が使っている」ではなく、「みんながちょっとずつ試している」状態をつくることが、AI活用が定着していく現実的なステップです。

③ AIを「業務の中」に埋め込む

忙しい現場でAIが使われない理由は、「やり方が難しい」からではなく、「使うタイミングが決まっていない」からです。ツールは“ある”だけでは意味がなく、日々の流れの中に“組み込まれている”ことが必要です。

つまり、AIを開くこと自体が自然な行動になるように、あらかじめ業務の導線の中に定義しておく必要があります。業務の“外”にあるものは、どれだけ便利でも“使われないまま忘れられる”のです。

・「この業務では一度AIにかけてみる」という流れを明文化
・手順書ではなく“やり方の定番化”で負荷を下げる
・勤務管理・求人作成など既存フローと接続させる

大切なのは、属人的に「できる人だけが使う」のではなく、「誰もが使う流れがある」ことです。やるかやらないかを迷う前に、「まずAIにかけてみる」が無意識でできるようになったとき、AIはようやく職場に定着します。

④ まず1場面、1回から始める

AIの導入でよくある失敗は、「いきなり全体を変えようとすること」です。ですが、どんな変化も、最初の1回のトライアルがなければ始まりません。しかも、その1回は“完璧な成功”である必要はまったくないのです。

「思ったよりラクだった」「この部分は使えるかも」など、小さな前進が実感として残れば、それが次の行動のきっかけになります。まずは1業務・1回に絞り込むことで、習慣化の土台ができます。

・応募者対応メールだけAIに任せてみる
・求人文の冒頭だけ生成してみる
・採用広報の文案出しだけAIに頼ってみる

何かを変えるときに必要なのは、“すべてを変えること”ではありません。まずは手が届く範囲で、「ちょっと使ってみた」という体験を積むこと。その繰り返しが、気づけば文化になっています。


「誰でも使える」ではなく、「誰かが使っている」をつくる

定着のスタートは、“全員が理解すること”ではなく、「現場の中で使っている姿が“目に入る”状態」をつくることです。

「気づいたら使っていた」「なんとなく使ってみた」

その1回が、AIを“現場の当たり前”に変える出発点になります。


目次