「診療が終わってから、ようやく採用のことを考えられる」
「求人サイトに掲載したけど、ほとんど反応がない」
「そもそも、どうすれば応募が来るのか分からない」
――そう感じているクリニックの院長は少なくありません。
日々の診療やスタッフマネジメントに追われる中、採用活動まで院長自身が担っているというケースは非常に多く見られます。限られた時間と人手の中で、効果的な採用活動を進めるのは容易ではありません。特に、医療職は専門性が高く、単に人数を集めるだけでは現場の力にはつながりません。
「誰を採りたいのか」「どんな働き方を提供できるのか」など、求人の内容そのものを練るところから考えなければならないため、採用には多くの準備と判断が求められます。
こうした中、「採用そのものを外注できないか?」と考える院長が増えてきています。いわゆる「採用アウトソーシング」です。これにより、採用活動の一定部分を外部に委ねることで、業務負担を軽減し、より本質的な判断(誰を選ぶか)に集中できる環境を整えることが可能になります。
今回は、クリニック経営者が抱える採用課題を出発点に、アウトソーシングという選択肢がどのように役立つのか、またメリットと留意点についても冷静に見ていきます。「人材紹介会社に頼る以外に、採用をうまく進める方法はないのか?」という疑問に対し、もうひとつの解決策としての視点を提供します。
なぜ、クリニックの採用は「うまくいかない」のか?

採用活動に悩むクリニックは多く、その背景には「時間の不足」と「ノウハウの欠如」という2つの大きな要因が存在します。加えて、医療業界特有の事情が絡み合い、一般企業とは異なる難しさを生んでいます。まずは、採用がうまくいかない要因をひとつずつ紐解いていきます。
院長がすべてを抱えるクリニックならではの問題
多くのクリニックでは、院長自身が経営者でありながら診療の現場にも立ち続けています。その中で、採用という業務も「ついで」に行わざるを得ない状況が常態化しています。求人原稿の作成、媒体選定、面接対応、条件交渉など、通常であれば専門人材が担う工程を、院長が一人で行っているケースは少なくありません。
その結果として、「採用活動に十分な時間が割けずに後回しになる」「応募が来ても対応が追いつかず、選考途中で自然消滅する」といった問題が発生しやすくなります。採用以前に「体制として回っていない」ことが、最初のボトルネックとなっているのです。
採用ターゲットが曖昧なまま動き出す
もうひとつの典型的な問題は、「誰を採用したいのか」が不明確なまま、求人を出してしまうケースです。特に、看護師や医療事務といった職種では、スキルや経験値、求める人物像に幅があるにもかかわらず、それらを言語化せずに「来てくれれば誰でもいい」というスタンスで進めてしまうことがあります。
結果として、採用した人材が現場にフィットせず、早期離職を招いたり、職場内の雰囲気に悪影響を与えたりといったリスクが高まります。「採ったけれど、続かない」という経験を繰り返すことで、ますます採用への不信感や疲弊感が蓄積されていきます。
媒体任せの求人では反応が得られにくい
従来の求人媒体に情報を出せば、ある程度の応募は来るだろうという発想も、今では通用しなくなっています。特に医療業界では、求職者側の情報収集がより慎重かつ多角的になっており、「どんな職場かイメージできない」「自分に合っているかわからない」状態では、応募まで至りません。
事実、求人媒体での検索ヒット数が一定あっても、応募に結びつかないという声は多くあります。その背景には、「条件提示」だけでは動かない時代の採用事情があります。求職者は、職場の雰囲気や働く人の価値観を含めて判断するようになっているため、表面的な情報だけでは決め手に欠けてしまうのです。
採用に“試行錯誤”する時間がない
最後に挙げておきたいのが、「仮説・検証」ができないという点です。本来であれば、求人を出して反応を見て、改善を加えるというプロセスを繰り返すことで、採用精度は高まっていきます。しかし、現場が忙しい院長にとって、ひとつひとつの反応を分析し、対策を講じるという時間的余裕は存在しません。
つまり、「採用がうまくいかない」のではなく、「うまくいくための準備と試行錯誤ができない」ことが本質的な問題だといえるのです。
採用アウトソーシングとは何か?クリニックが頼る価値とは

採用アウトソーシングとは、求人作成から候補者対応、面接調整までの一連の採用プロセスを外部の専門パートナーに委託する手法です。一般企業では広く活用されている手法ですが、近年ではクリニックなど医療機関でも導入が進んでいます。とりわけ、診療と経営を兼務するクリニック院長にとっては、“採用にかける時間”を確保できないという根本的な課題に対し、具体的な解決策を提供する手段として注目されています。
「業務の肩代わり」ではなく「考える余白の創出」
アウトソーシングの本質は、単なる作業代行ではありません。採用活動に関する実務(求人票作成、媒体選定、候補者対応など)を専門家が担うことで、院長自身は「誰を採るか」「その人にどんな役割を期待するか」といった“意思決定”に集中できる状態をつくることが可能になります。
多くの院長は、採用業務が「やらなければならない業務」として捉えられがちです。しかし、アウトソーシングを活用することで、「考えるための時間」「本質的な判断に向き合う時間」を取り戻すことができるのです。
クリニックに精通したパートナーの存在
採用アウトソーシングと一口に言っても、その中身や質には大きな違いがあります。特に医療業界においては、業種特有の事情や求職者の心理、制度・資格に関する知識が求められます。したがって、医療職専門かつクリニックの支援実績があるアウトソーサーと連携することが、成果を左右する鍵となります。
たとえば、応募者は職場の人間関係・勤務体制などに対して高い関心を持っています。ただそれだけではありません。病院なのかクリニックなのか訪問看護なのか、働く場所で勤務体系などの条件だけでなく、思い描くキャリアが異なります。そうした視点を踏まえた求人訴求や情報発信ができるかどうかが、応募者の“応募スイッチ”を押すかどうかに直結します。
クリニック院長の頭の中にある「イメージ」を言葉に変える
採用において意外と大きな障壁となるのが、「自院の魅力をどう伝えればよいか分からない」という課題です。実際、多くの院長が「雰囲気は良い」「スタッフは定着している」といった強みを感覚的には理解していても、それを具体的な言葉として求人票に落とし込むことに苦労しています。
こうしたケースでは、アウトソーシングを通じて第三者の視点を取り入れることで、職場の良さをより客観的かつ説得力のある形で伝えることができます。ヒアリングを通じて、職場の文化、価値観、日常のやり取りなどを掘り起こし、それを応募者に響く言葉として再構築してもらうのです。
つまり、「なんとなく良い」と感じている職場の特長を、応募者が「ここで働いてみたい」と感じる魅力へと変換してもらえる点に、アウトソーシングの実務以上の価値があります。こうしたプロセスを経ることで、求人内容にリアリティと説得力が加わり、応募率の向上にもつながります。
長期的には「採用力のある組織」へ
アウトソーシングの効果は一時的な人材確保にとどまりません。採用フローや情報発信の型が整うことで、「再び採用が必要になったときにも、すぐに動ける」状態をつくることができます。
たとえば、過去の求人原稿を活かしつつ微修正を行う、媒体ごとの効果を記録しておくなど、ノウハウが蓄積されれば、組織としての採用力も高まっていきます。単発的な人材紹介に依存するのではなく、自ら採用活動を運用できる体制づくりこそが、アウトソーシングの本質的な価値と言えるでしょう。
アウトソーシングの「メリット」と「デメリット」

採用アウトソーシングは、時間の確保や業務効率の向上といった即効性のある効果が期待できる一方で、当然ながら注意すべき点も存在します。ここでは、クリニックがアウトソーシングを導入する際に把握しておきたいメリットとデメリットを、現実的な観点から整理していきます。
メリット①:採用にかかる時間を大幅に削減できる
採用業務は、一見単純に見えても、実際には多くの工程が積み重なっています。求人原稿の作成、掲載準備、応募者への連絡、面接調整、フィードバックなど、それぞれが診療の合間には対応しにくい作業ばかりです。アウトソーシングによって、これらの実務を専門スタッフが代行することで、院長や事務長が本来の業務に集中できるようになります。
メリット②:プロの視点で求人の質が高まる
採用支援に特化したパートナーは、求職者の行動傾向や業界動向を熟知しており、求人票やスカウト文面の改善、応募者対応のアドバイスなど、経験に裏打ちされた視点を持っています。これにより、従来のやり方では得られなかった応募者からの反応を引き出すことも可能になります。
メリット③:“採用の仕組み”が整ってくる
外部に業務を委ねることで、採用活動が属人的ではなくなり、手順や基準が自然と整理されていきます。過去の求人データの蓄積、媒体ごとの効果測定、応募から内定までの動線管理など、継続的な採用活動の「型」がクリニックの中に形成されていきます。これが、将来的に採用を自走させるための大きな土台となります。
デメリット①:一定のコストが発生する
当然ながら、アウトソーシングには業務委託費用が発生します。求人媒体の掲載料や成果報酬費用とは別に、支援範囲や期間に応じた費用が必要です。短期的に見れば支出増となるため、費用対効果の判断が必要です。ただし、時間的コストや人的リソースの観点も含めて総合的に評価することが重要です。
デメリット②:情報共有が必要になる
外部パートナーに業務を任せるとはいえ、完全な「丸投げ」は機能しません。クリニック側は、職場の雰囲気、求める人材像、これまでの採用履歴など、必要な情報を適切に提供する必要があります。初期段階ではこの情報共有に一定の手間がかかるため、「時間削減」の実感を得るまでにタイムラグが生じることがあります。
デメリット③:任せっきりにするとノウハウがたまらない
アウトソーシングは業務負担を減らすうえで効果的ですが、すべてを外部任せにすると、自院内に採用ノウハウが蓄積されにくいという側面があります。たとえば、どの媒体が効果的だったか、どのような文面に応募者が反応したかといった実践的な知見は、継続的に関わらないと見えづらくなります。
外部を「任せる相手」ではなく「共に動くパートナー」として捉え、内側でも採用感度を高めていくことが、組織としての持続的な強みになります。
採用アウトソーシングは、魔法のようにすべてを解決してくれる手段ではありません。重要なのは、現在のクリニックの状態と照らし合わせて、「何を優先すべきか」を明確にすることです。
たとえば、「今すぐに時間を確保したい」のか、「採用の質を高めたい」のか、「将来的に自走できる体制を作りたい」のか――目的によって、アウトソーシングの活用範囲や期待値も変わってきます。
一方的な依存ではなく、役割分担の視点で導入を捉えることが、成功の鍵となります。
明日からできる「採用を外注化」するためのステップ

採用アウトソーシングの必要性は感じていても、何から始めればよいかが分からず、導入に踏み出せない院長も少なくありません。ここでは、クリニックが“無理なく”“段階的に”採用の外注化を進めるためのステップを整理します。大きな仕組みを一度に作る必要はなく、小さなアクションから始めることが、実現可能な外注化につながります。
ステップ1:自院にとっての“理想の採用”を言語化する
最初に取り組むべきは、院長自身が「どんな人を採りたいのか」「どんな採用活動を実現したいのか」を明確にすることです。アウトソーシングは“任せる”ことが前提となるため、その前提条件が曖昧なままでは成果に直結しにくくなります。
自問すべき問いは次の通りです。
・採用したい人物像(経験・価値観・スキルなど)は?
・採用を通じて解決したいことは何か?
・応募者に伝えたい「自院らしさ」はどこにあるか?
こうした軸を持っておくことで、外部パートナーとの認識のズレを防ぎ、効果的な連携が可能になります。
ステップ2:信頼できるパートナーを選ぶ基準を決める
アウトソーシングを成功させるためには、外注先の選定が極めて重要です。選び方を誤ると、ただの作業請負に終始し、採用の質に結びつかないケースもあります。
確認すべきポイントは以下の通りです。
・医療職採用に対する理解や実績はあるか
・求人原稿作成時に、十分なヒアリングの時間を確保してくれるか
・数字ではなく「伝え方」にもこだわってくれるか
・結果の振り返りや改善提案があるか
価格やメニューだけで比較するのではなく、コミュニケーションの質や考え方の共通性を重視することが、中長期的な信頼関係につながります。
ステップ3:情報共有と判断の主導権を持ち続ける
外部に任せたとしても、判断や最終的な方針決定は院長が担う必要があります。「任せっぱなし」ではなく、「院内と外部で役割を分けて動く」というスタンスが重要です。
たとえば以下のような行動が役立ちます。
・応募者の傾向や反応についてフィードバックを求める
・外注先の施策内容を記録・共有し、ノウハウとして蓄積する
・面接は院長自ら実施し、現場との相性を見極める
このように、院長自身が情報のハブとして関与し続けることで、採用活動は“外に任せつつ、中に残る”形で進めていくことができます。
採用は、忙しい院長業務の中でも後回しにしがちな領域ですが、人材確保は経営の安定に直結します。すべてを自力で抱え込むのではなく、信頼できる外部の力を活用することで、本来向き合うべき「誰と、どんな医療をつくっていくか」に集中する余地が生まれます。無理なく始められる一歩から、採用の新しい進め方を検討してみてはいかがでしょうか。

