クリニックの定着率が高くても安心できない理由と解決策

ミーティングをする医師と看護師

クリニックの院長として「うちは定着率が高いんです」と自信を持って話す方も多いでしょう。確かに、長く働き続けるスタッフが多い職場は一見すると安定し、良好な職場環境が整っているように感じられます。しかし、その「定着率の高さ」が果たして「スタッフの満足度」を反映しているのかと問われると、一概にそうとは言えないケースもあります。

実際のところ、スタッフがクリニックに留まる理由は多種多様です。「働きやすさ」や「職場への愛着」だけが理由とは限りません。例えば、「辞める余裕がない」「転職活動の時間が取れない」「周囲の目を気にして動けない」など、やむを得ず現状に留まっている場合もあります。

こうした事情を見落としてしまうと、「定着率が高い=満足度が高い」と過信してしまい、突然の退職ラッシュに直面するリスクがあります。本記事では、クリニックの定着率が高くても安心できない理由ついて整理し、その背景に潜むリスクを検証し、明日から出来る取り組みについてお伝えします。

目次

「辞めてない=納得している」とは限らない

スタッフが長く働き続けていることを「職場への納得感」と捉えるのは早計です。実際には「辞められない理由」があるだけで、心の中では不満やストレスを抱えたまま働き続けているケースも少なくありません。

クリニックを辞めない理由の裏にある心理

スタッフが辞めない理由として、以下のような背景が考えられます。

転職する余裕がない
クリニック業務が忙しく、転職活動に時間を割けないため、現職にとどまっている。

周囲の目が気になって動けない
同僚や上司の目を気にして、「辞める」と言い出しづらい空気がある。

次の職場が不安
他のクリニックに移った場合の業務内容や人間関係に不安を感じ、現状維持を選択している。

経済的理由で辞められない
生活費や家庭の事情から、現職を続けざるを得ないと感じている。

表面的な「定着」と「本音」のギャップ

一見すると「定着率が高い」と評価できても、その裏には「動けないから残っている」というケースが潜んでいます。スタッフが本当に職場に納得しているかどうかを判断するには、辞めない理由を深掘りする必要があります。

日常的なチェックポイント

スタッフと直接対話しているか
日頃のコミュニケーションから不安の兆しを察知できているか
業務に追われて声をかけられていない状況はないか

「定着しているから安心」と思い込まず、スタッフが本音を言える雰囲気を作り、辞めたい理由を抱えたまま働き続けているリスクに目を向けることが重要です。

定着率が高いクリニックでも離職リスクが潜む理由

クリニックの経営者として、「スタッフが長く在籍しているから問題ない」と考えるのは危険です。定着率が高い職場でも、実は離職リスクが潜在しているケースが多く見られます。表面的な数字だけでなく、内情を丁寧に把握することが求められます。

「定着率が高い」の落とし穴

スタッフが離職しない理由が必ずしも職場満足度を示しているとは限りません。むしろ、以下のような「我慢」によって残っている場合があります。

不満があっても言い出せない空気
クリニック特有の上下関係や固定化された人間関係により、改善要望が出しづらい。

改善策が見えないため、現状維持を選ぶ
「どうせ言っても変わらない」と感じて、声を上げること自体をあきらめている。

離職のタイミングを逃している
「年度末まで」「次の新人が育つまで」と考えているうちに、辞めるタイミングを失っている。

見逃されやすい「静かな不満」

一見して問題がないように見える職場ほど、離職リスクが顕在化しづらい傾向があります。特に、日常の業務がルーティン化しているクリニックでは、スタッフの内心が見えにくくなりがちです。

離職率が低いという安心感に浸っている間に、不満が静かに蓄積し、ある日突然の退職につながることも少なくありません。

「静かな不満を」見逃さないためのアプローチ

定期的なアンケートで満足度を数値化する
数値で見える化することで、潜在的な問題を把握しやすくなります。
日常会話の中で気になる点を聞き出す
形式的な面談だけでなく、日々のコミュニケーションを大切にする。
役職者が一歩踏み込んで状況を確認する
普段声を上げないスタッフほど、直接のフォローが必要です。

ポイント

定着率という数値の安心感だけに頼るのではなく、実際の職場の空気感や個々のスタッフの心理状況を把握するための工夫が求められます。静かな不満を見逃さず、早期発見と対策を心がけましょう。

スタッフの「残っている理由」を知るための工夫

クリニックの定着率が高いと、「スタッフが働き続ける理由」を深掘りせずに安心してしまうケースが多く見られます。しかし、長く在籍しているからといって必ずしも職場に満足しているわけではありません。

大切なのは、「なぜ続けているのか」という動機を理解し、その背景にある心理や職場環境を見極めることです。

続ける理由を見逃さないために

スタッフが「残る理由」は大きく分けて二つあります。

1. ポジティブな理由
– チームワークが良く働きやすい
– 成長を感じられ、やりがいがある
– 職場環境に納得している

2. ネガティブな理由
– 他に移る選択肢がない
– 辞めるタイミングを逃している
– 変化が面倒で現状維持を選んでいる

これらをきちんと理解しないと、表面的な「定着」に安心してしまい、問題が顕在化したときに対処が遅れるリスクがあります。

続けている理由を知るための工夫

・1on1ミーティングで深掘り質問をする
「この職場のどこが好きか?」だけでなく、「今の働き方に不満はないか?」といった質問で、前向きな意図と潜在的不満をバランスよく聞き出します。

意見を表明しやすい場を作る
職場全体で話すのではなく、2~3人の少人数グループで意見を共有する場を設けると、本音が出やすくなります。

働き続けている背景を個別に確認する
年齢や生活環境により「残りたい理由」は異なります。例えば、子育て中のスタッフは「勤務時間の柔軟さ」を重視しがちです。

辞められない心理に寄り添う

あるスタッフが「辞めたくても次が見つからないから続けている」と話したとします。こうした場合、無理に引き留めるのではなく、現職でのやりがいやサポート体制を見直すことで、前向きに働ける環境を整えることが大切です。

職場の風土を見直す必要性

特にクリニックでは、上下関係が強く「意見を言いにくい雰囲気」が続くと、問題があっても声を上げられず、結果的に「残るしかない」と感じさせてしまいます。

「残ってくれているスタッフの声」を集め、その動機や背景を理解し、働き続けるための環境づくりを工夫することが、長期的な安定につながります。

ポイント:
表面的な定着率に安心しない
「辞めない理由」を具体的に聞き取る工夫をする
スタッフごとに異なる続ける理由を把握する
ポジティブとネガティブを区別して理解する

明日から実践できる「スタッフ定着率の質」を高める取り組み

クリニック運営において、定着率の高さだけに安心せず、スタッフ一人ひとりの働き続ける理由や職場への本音を正しく理解することが大切です。

「辞めない理由」に潜むネガティブな要素を見逃さず、ポジティブな定着に繋げるために、明日から実践できる取り組みを紹介します。

1. 「働きがい」と「続ける意義」を見直す

スタッフが「なぜ働き続けているのか」を把握するために、働きがいや職場への意義を感じられる環境を整えましょう。

業務の目的を共有する
日々の業務が「ルーチンワーク」にならないよう、クリニックとしての目標や意義を定期的に共有します。 例えば、「患者さんの笑顔を守るための取り組み」といったビジョンを明確に伝えることで、スタッフのやりがいが向上します。

スタッフ自身が「なぜ続けているのか」を考えさせる場を設ける
月1回のミーティングで「この職場にいて良かったと感じた瞬間」を話し合う時間を設定することで、前向きな定着を促します。

2. 「続けやすさ」を支える制度を整える

働き続けるためには、「物理的・心理的なハードル」を下げる環境整備が必要です。

シフトや勤務形態の柔軟性を再確認する
子育て世代や介護中のスタッフが無理なく続けられるよう、希望シフトや在宅勤務などを柔軟に対応できる仕組みを整備しましょう。

日常業務の「負担感」を減らす工夫
患者対応が集中する曜日や時間帯にサポートスタッフを配置し、負担を分散させます。こうした配慮が、長期定着に繋がります。

3. 「声を上げやすい職場風土」をつくる

スタッフが感じている課題やストレスを気軽に共有できる雰囲気が、職場満足度を高めます。

気軽に相談できる窓口を設ける
リーダーや上司だけでなく、年齢や役職が近い「ピアサポーター」役を設置することで、気軽に悩みを相談できる体制を作ります。

「意見が反映される」実感を持たせる
スタッフから出た改善提案を可能な限り実現し、その結果をフィードバックすることで「意見が無駄にならない」という信頼を得ます。

4. 「気づき」を共有する習慣化

スタッフが感じた「良かったこと」「困ったこと」を共有する機会を設け、個々の気づきをチーム全体で活かせるようにします。

気づきを発信するミニミーティング
週1回、10分程度の「気づき共有タイム」を設定し、業務の中で感じたポジティブなエピソードや改善点を話し合います。

情報をデジタルで一元管理
気づきや提案は、社内チャットや社内SNSで共有し、全員がアクセスできる形で蓄積します。

5. 「意識改革」と「柔軟性」を同時に進める

スタッフが変化に前向きでいられるよう、「改善提案を歓迎する姿勢」と「新しい取り組みを試す柔軟性」を持たせましょう。

アイデアを否定しない文化づくり
改善提案を出す際、「無理」「難しい」と否定せず、「まずやってみよう」という前向きなアプローチを推奨します。

小さな成功を積み重ねる
大きな改革を目指すのではなく、小さな改善でも効果があれば評価し、ポジティブに受け止める文化を育てます。

Next Action

・月1回の「続けている理由」振り返りミーティングを実施する
・勤務環境アンケートを匿名で実施し、改善点を抽出する
・週1回の「気づき共有タイム」で前向きな意見を可視化する
・ピアサポーター役を選任し、相談体制を強化する
・改善提案を数値化して効果を共有する


クリニックのスタッフ定着率が高いからといって、必ずしも「満足度が高い」とは限りません。

大切なのは、スタッフが「なぜ続けているのか」を正しく理解し、その背景にある理由を深掘りすることです。

「辞めない」ではなく「続けたい」と感じられる職場づくりを目指し、日常のコミュニケーションやサポート体制を見直すことで、より良い定着を実現しましょう。


監修者:権守 泰純(Yasuyoshi Gonmori)

株式会社HOAP代表取締役。2022年に創業し、医療・介護業界に特化した採用支援事業を展開。現在は訪問看護・訪問診療訪問歯科など在宅分野からクリニックなど、業界特化で採用支援事業を展開。


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