訪問看護の求人で差別化するために必要な「価値観の言語化」

ディスカッションする看護師たち

訪問看護業界では、給与や休日といった待遇面が他社と大きく変わらないケースが多く見受けられます。これにより、求人を出しても「待遇では差がつかない」という課題に直面し、採用に苦労するステーションも少なくありません。

しかし、そんな時代だからこそ求職者が重視しているのは「職場の価値観」「スタッフの人間性」といった要素です。応募者は待遇面だけでなく、「この職場で働く意味」や「スタッフがどのような価値観を持って働いているか」を深く考え、職場選びをしています。

「なぜこの事業を行っているのか」
「どんな理念でチームを作っているのか」

といった価値観が、求人票やSNSを通じて具体的に伝わっているかが、選ばれる職場とそうでない職場を分けるポイントになっています。

本記事では、訪問看護業界における「価値観の言語化」をテーマに、求人作成や採用ブランディングに役立つポイントを解説します。給与や待遇では差別化が難しい今だからこそ、職場の価値観をどう伝えるかを考えていきましょう。

目次

給与も休みも似ている今、“人間性と方向性”で判断されている

訪問看護業界では、給与や休日など待遇面の違いが小さくなり、他ステーションとの差別化が難しくなってきています。そのため、求職者が職場を選ぶ基準が「待遇」から「価値観」へとシフトしているのが現状です。

では、求職者はどのような価値観に注目しているのでしょう

求職者が注目する“人間性”と“方向性”

求職者は、待遇面が似通っている中で、職場の「人間性」と「方向性」を見極めようとしています。具体的には、以下のようなポイントが重視されています。

「この組織の人たちと合いそうか?」
「どんな想いで働いているのか?」
「なぜこのステーションが存在しているのか?」

こうした問いに対し、訪問看護ステーションとしては「価値観の共有」が不可欠です。

特に、現場で働くスタッフ一人ひとりがなぜこの仕事をしているのか」「どのような意識でケアに臨んでいるのか」を語れるようになると、求職者の共感を呼びやすくなります。

人間性が伝わる採用ブランディングのポイント

採用ブランディングでは、抽象的な理念だけでなく、日々の業務や現場の雰囲気が伝わるエピソードが大切です。たとえば、以下のような要素が共感を得やすいです。

現場の日常が伝わるストーリー
 訪問先で利用者とどのように向き合っているか
 利用者やその家族との関係性にどんな工夫をしているか

スタッフ個々の想いを可視化する言葉
 「病院にはない在宅ならではの魅力」
 「ケアに対して自分が大切にしているポイント」

求職者に「自分の価値観と合うかもしれない」と感じてもらえることが、結果として応募率や定着率を高める要因になります。

実践:スタッフインタビューを活用する

職場の人間性を伝えるためには、実際のスタッフの声を取り入れるのが有効です。例えば、以下のようなインタビュー形式を採用サイトやSNSで展開することで、職場の空気感をリアルに伝えられます。

インタビュー内容例
 ・「訪問看護のどこにやりがいを感じていますか?」
 ・「仕事を通じて成長したと感じた瞬間は?」
 ・「このステーションの好きなところを教えてください」

これにより、求職者が現場での働き方や人間関係をイメージしやすくなり、「自分もここで働きたい」と思うきっかけにつながります。

「理念」と「採用ワード」が分断されてない?

訪問看護ステーションの中には、理念やビジョンを掲げているにもかかわらず、それが求人情報に反映されていないケースが少なくありません。こうした状況では、「企業理念」と「採用ワード」が分断され、求職者に「どんな価値観で運営されている職場なのか」が伝わりにくくなります。

結果として、「理念が立派でも現場と一致していないのでは?」という疑念を持たれ、応募率が低下してしまうのです。

訪問看護ステーションの理念が伝わらない求人の典型例

訪問看護ステーションの中には、「利用者様中心のケア」「地域密着型のサポート」といった理念を掲げているにもかかわらず、その理念が求人票に反映されていないケースが多く見られます。

特に、求人票の内容が待遇や条件面ばかりに偏っていると、応募者はそのステーションの「価値観」や「看護観・リハビリ観」が見えてこず、他のステーションとの違いが分からなくなってしまいます。

例えば、ホームページでは「利用者様に寄り添うケアを大切にする」とアピールしている一方、求人票には以下のような情報が羅列されているだけのケースが多いです。

求人票に記載されがちな条件面の項目
・月給○○万円以上
・週休2日制、シフト制
・訪問件数○○件/日
・資格要件や経験年数

こうした「待遇」や「仕事内容」ばかりが記載された求人票では、「なぜこの職場で働く意義があるのか」が伝わりません。求職者にとっては、他の訪問看護ステーションと何が異なるのかが分からず、応募の動機づけが弱まってしまうのです。

訪問看護ステーションの理念と求人が一致しているとどうなるか

訪問看護ステーションが掲げる理念が、実際の現場や求人票と一致していると、求職者の共感を得やすくなります。特に、理念が「現場でどのように根付いているか」を具体的に伝えることで、応募者が自分の働き方をイメージしやすくなります。

では、理念と求人が一致している具体例を考えてみましょう。

実際の理念と求人表現がつながっている例

例えば、ある訪問看護ステーションが掲げる理念が以下のようなものだったとします。

掲げる理念:「利用者様が“その人らしく”生活できるよう、ケアを通じて支援します」

この理念を、求人票に具体的に反映させるためには、日々の業務やスタッフの行動がどのようにその理念に根付いているかを示す必要があります。

以下は、実際の求人票で理念が具体化されている例です。

求人票の表現例
・「認知症ケアでは、利用者様の“これまでの暮らし”を尊重し、スタッフが訪問のたびに同じ声がけを行う取り組みを続けています。」
・「利用者様一人ひとりの生活スタイルに合わせたケアを行うため、スタッフ同士で日常的に情報共有を徹底しています。」
・「その人らしさを支えるため、ケアの方法や言葉かけをスタッフ全員で検討し、共有する文化があります。」

このように、理念が現場の行動として定着していることで、応募者にとって「ここで働く自分」をより具体的に想像しやすくなります。

共感を生む求人ワードの工夫

訪問看護ステーションで求人を出す際は、理念をしっかりと求人票に落とし込むことで、求職者は共感を覚えやすくなります。

理念と求人ワードが一致していると、以下のようなメリットが得られます。

働き方のイメージが明確になる
 「現場での価値観」が理解できるため、入職後のギャップが少ない。
応募者の安心感が高まる
 理念がスタッフの行動指針になっているため、「自分の看護観を活かせる」と感じられる。
職場への期待が膨らむ
 理念に共感したスタッフが多く在籍していると伝わるため、「長く働けそう」という印象を与える。

独自性を打ち出すためのポイント

他の訪問看護ステーションとの差別化を図るためには、「そのステーションだからこそ」の具体例を入れることが重要です。以下の点を意識して求人票を作成すると、理念と現場が結びつきやすくなります。

1. 理念を具現化した取り組みを示す
 ・「利用者様の“生活歴”を共有する時間をスタッフ間で必ず設けています。」
 ・「スタッフ全員が同じ看護観を持つため、定期的にケア事例を持ち寄り、理念と照らし合わせる場を作っています。」

2. 実際の現場風景を具体的に描写する
 ・「子育てしながら看護師を続けて欲しいので直行直帰を導入しています。スタッフが安心して働けるからこそ利用者様のことを1番に考えられると思っています。」
 ・「ケア後には、利用者様からの感想をフィードバックし、ケア改善に活かす工夫を続けています。」

3. 理念を活かして働くスタッフの声を紹介する
 ・「利用者様とのコミュニケーションを大切にし、“その人らしさ”を支えるケアを続けていることで、日々のやりがいを実感しています。」
 ・「”病気を看るのでなくその人の生活を看る”ことを意識することで、在宅ならではの気付きや発見の毎日です。」

こうした表現により、求人票に独自性が生まれ、応募者に「この職場だから働きたい」と思わせる力が生まれます

価値観を伝えることでスタッフが長く働けるステーションに

訪問看護ステーションでスタッフが長く働き続けるためには、「自分が大切にしている価値観がステーション内で共有されている」と実感できることが重要です。

特に、現場で働くスタッフが「なぜこのステーションで働くのか」を自分の言葉で語れる環境は、モチベーションの維持にもつながります。このセクションでは、「価値観を共有することで職場定着が促進される理由」について解説します。

なぜ価値観がスタッフ定着に直結するのか

訪問看護という仕事は、利用者の生活に深く関わり、時には困難なケースに直面することも少なくありません。その中でスタッフがやりがいを感じ、長く働き続けるためには、「ステーションの価値観」と「個々の看護観」が一致していることが鍵となります。

例えば、以下のような場面で価値観が共有されているかどうかが大きく影響します。

困難事例への対応で葛藤が生まれたとき
 「利用者様の気持ちを大切にしたいが、医療的には厳しい状況」という場面で、チームとしてのケア方針が共有されていると、スタッフ同士のサポートがスムーズに進む

忙しい時期に負担を感じたとき
 ケアが多忙な時期でも、「利用者様中心でケアを行う」という価値観が共有されていることで、業務負担を助け合う風土が生まれる

価値観が見える職場が持つ強み

1. スタッフ同士の共感が生まれる
 ・価値観が言語化されている職場では、「自分だけが悩んでいるのではない」と感じやすく、孤立感が薄れる
 ・チームとしての一体感が生まれ、「大変な時も支え合える」職場風土が育つ。

2. 働きがいが維持しやすい
 ・理念が浸透していることで、日々の業務が「なぜ必要か」を考えやすくなり、日常業務に意味を感じやすい
 ・「利用者様の笑顔を見ると、やっぱりここで働きたいと思う」といったポジティブな実感が得られる。

3. 職場への信頼感が向上する
 ・求職者だけでなく、現職スタッフも「理念がぶれない職場」と感じ、長期的に働く意識が高まる
 ・スタッフ自身が職場の価値観を共有できると、他者にも誇れる職場として意識が強まる。

価値観を共有するための3つの取り組み

価値観を共有し、職場の一体感を高めるためには、日々のコミュニケーションが欠かせません。以下は、訪問看護ステーションで実施できる具体的な取り組み例です。

1. 定期的な価値観共有ミーティングを行う
・月に一度、ケアに対する考え方や価値観をテーマにしたミーティングを実施し、スタッフ同士で意見交換を行う。
・「訪問先で感じたジレンマ」を共有し、チームで解決策を考える場を設ける

2. スタッフアンケートで価値観の再確認
・「どのようなケアを大切にしているか」を定期的にアンケートし、価値観のすり合わせを図る。
・「なぜこの訪問看護ステーションで働いているか」という問いを設け、スタッフのモチベーションを言語化する。

3. 新人教育に価値観を組み込む
・新人研修の中で、「この職場が大切にしているケアの考え方」を伝え、現場でどのように実践されているかを具体例を交えて説明する
・「困難ケースにどう向き合うか」を話し合うワークショップを取り入れ、現場の価値観を学ぶ場を設ける。

訪問看護ステーションが選ばれるためには、給与や待遇ではなく「価値観」を伝えることが重要です。

理念が現場に根付いているかを求人票やスタッフの声で具体的に示すことで、求職者は「ここで働きたい」と感じやすくなります。価値観を見える化し、共有し続けることで、定着率の向上と魅力ある職場づくりが実現します

出来ることから始めていきましょう。


監修者:権守 泰純(Yasuyoshi Gonmori)

株式会社HOAP代表取締役。2022年に創業し、医療・介護・歯科業界に特化した採用支援事業を展開。訪問看護・訪問診療クリニック訪問歯科を中心にサービスを展開中。


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