SNS採用、実は逆効果かも?訪問看護の採用でやってはいけない5つのこと

スマホをみながらSNS戦略について考える看護師

「Instagramで採用活動を始めたけれど、全然反応がない」
「スタッフ紹介を投稿しているのに応募につながらない」

――そんな声を、訪問看護ステーションの経営者から頻繁に耳にします。中には、時間と手間をかけて運用しているにも関わらず、むしろ“やらない方がよかったのでは”と感じている方もいるかもしれません。

実際、SNS採用は取り組み方を間違えると、逆効果になることもあります。特に訪問看護のように「仕事内容がイメージしにくい」「勤務条件よりも“人間関係”や“安心感”が重視される」業界では、投稿内容の伝わり方が結果に直結します。

多くの場合、Instagram運用がうまくいかない理由は「コンテンツが相手目線になっていないこと」や「行動を後押しする流れがないこと」にあります。つまり、“いいことを発信すれば人が集まる”という発想だけでは、応募どころか「興味を持ってもらう」ことすら難しいのです。

本記事では、訪問看護ステーションの採用活動において、SNS(特にInstagram)でやってはいけないポイントを5つ取り上げます。表面的なノウハウではなく、「なぜそれが逆効果になるのか」「どうすれば信頼されるのか」という視点から、Instagram運用を見直すきっかけになれば幸いです。

目次

①スタッフ紹介、ただの「自己紹介」になっていませんか?

「紹介したつもり」が、共感を生まない理由

Instagram運用の中でも、スタッフ紹介は最も多く使われるコンテンツのひとつです。しかし、「名前・年齢・出身地・趣味」などを並べただけの投稿が、果たして求職者の心に響くでしょうか。結論から言えば、それは“ただのプロフィール紹介”であり、求職者にとっては「どこにでもある情報」にすぎません。

とくに訪問看護という専門性が高く、かつ個人プレーではなくチーム連携が求められる仕事では、「この人たちと一緒に働けそうか」「自分が溶け込めそうか」といった感情面のつながりが重視されます。そのためには、“ただの紹介”ではなく、“共感できる語り”が必要です。

「らしさ」が伝わるエピソードが共感を生む

採用につながるスタッフ紹介には、ある共通点があります。それは「その人らしさ」が自然に滲み出ていることです。たとえば以下のような表現です。

・「子育てとの両立に悩んでいた時期、先輩に『できる範囲でいいから一緒にやろう』と声をかけてもらって安心しました」
・「もともと病棟勤務でガツガツしていたけれど、今は“じっくり向き合える看護”にやりがいを感じています」

こうしたリアルな言葉は、求職者の「不安」や「理想」と自然に重なります。そしてその共感が、「この職場、気になるかも」という最初の一歩につながります。

「自分もこうなれるかも」と想像させる

Instagram運用の最終的な目的は、「この職場で働く自分」を具体的に想像してもらうことにあります。単に「誰が働いているか」を伝えるのではなく、「どういう価値観を持った人たちがいて」「どんな日常を過ごしているのか」を、なるべく具体的に、かつ感情を伴って描きましょう。

また、紹介文は「人事の目線」ではなく「スタッフ自身の言葉」で伝えるのが理想です。第三者目線の紹介ではなく、エピソード形式で本人の言葉を引用する形にすることで、より親近感と信頼感が高まります。

Next Action(明日からできること)
・投稿構成を「自己紹介」から「エピソード紹介」へ切り替える
・「なぜこの職場を選んだか」「どんなときにうれしかったか」など本人にヒアリングする
・1枚目に「問いかけ」や「ひっかかり」を入れて、興味を引く
・投稿文には、本人のセリフや感情表現をそのまま入れる
・「自分も当てはまるかも」と感じられるような生活感のある描写を意識する

②制度紹介ばかりで「人となり」が見えない発信

「福利厚生がある」だけでは、響かない

訪問看護ステーションのInstagram運用でよく見かけるのが、「充実した制度」を強調する投稿です。

たとえば

「有給取得率100%」「産休取得率100%」「研修制度が整っている」「多職種連携」

などの文言は、確かに魅力的に見えます。しかし、これらは情報であって、感情には届きません。

求職者が本当に知りたいのは、「なんで?」という問いの先です。制度そのものの紹介ではなく、制度が誰のどんな状況にどう役立ったのか――そこが描かれていなければ、「それ、うちもあるよね」「どこのステーションも言ってること一緒だな」「他との違いがわからない」とスルーされてしまう可能性が高まります。

「制度のおかげで助かった」瞬間を描写する

印象に残る制度紹介には、具体的なシーン描写があります。たとえば、次のようなエピソードです。

・「子どもが急に発熱したとき、直行直帰制度があって本当に助かりました。お迎えにも間に合い、申し訳なさより安心感の方が大きかったです」
・「研修制度といっても“マニュアル渡されて終わり”じゃなくて、先輩が同行して、実際にその場でアドバイスをくれたのが心強かったです」

このように、制度によって得られた安心や成長の“感情”に焦点をあてることで、求職者は自分自身の状況に引き寄せて考えるようになります。これは、共感を生むうえで非常に重要なポイントです。

「制度名」より「誰の、どんなストーリーか」

制度紹介を投稿する際は、「制度名」を主語にするのではなく、「スタッフ本人の体験」を主語に変えると伝わりやすくなります。たとえば、

「当社では育休明けの時短勤務が可能です」

「育休明けに時短勤務で復帰した看護師Aさんが語る“戻ってこられた理由”」

といったように、ストーリーの中に制度が自然と登場する形にすると、読み手にとっても「自分ごと化」しやすくなります。

Next Action(明日からできること)
・制度紹介の前に「誰がその制度を使ったか」「どう助かったか」をヒアリングする
・「制度名」から入るのではなく、「生活のワンシーン」から入る構成に変える
・投稿内で制度の“効果”や“感情の変化”を具体的に描く
・「リアルな一言」をセリフ引用で盛り込む(例:「それ、助かった…」)
・制度の説明ではなく、「制度によって叶ったこと」を伝える意識で構成を見直す

③誰に向けた投稿なのか、曖昧になっていないか?

投稿の相手が見えていないと届かない

訪問看護ステーションのInstagramアカウントにありがちなのが、「いいことをたくさん伝えよう」とするあまり、投稿の“相手”がぼやけてしまうケースです。制度紹介、スタッフ紹介、代表メッセージ――どれも一見すると丁寧ですが、「誰に向けた言葉なのか」が伝わらなければ、見る側は自分のこととして捉えられません。

採用活動における情報発信は、常に「この投稿は、どんな状況の、どんな思いを持った人に届いてほしいか」を具体的に設定することが不可欠です。対象があいまいだと、言葉もトーンも抽象的になり、結果として誰の心にも刺さらない発信になります。

想定する人物像を日常レベルで具体化する

欲しい人物像(ペルソナ)を定めるとき、「20代女性」「訪問看護未経験」などのスペックで定義するだけでは不十分です。それよりも、

・現在どんな職場にいて
・どんなモヤモヤを感じていて
・どんな暮らしやキャリアを理想としているか

といった視点で具体化することが重要です。

たとえば、「病院で夜勤が続き、子どもとの時間が取れないことに悩んでいる30代の看護師」や、「病棟経験しかなく、訪問看護に不安を抱えているが、家庭と両立できそうな働き方を探している人」など、ストーリーとして描けるレベルまで掘り下げると、発信内容が格段にシャープになります。

投稿前に必ず確認すべき3つの問い

毎回の投稿前に、以下の問いを立ててみることをおすすめします。

1. この投稿は「誰に向けて」作成しているのか?
2. その人は今、どんなことで迷っているのか?
3. それに対して、どんなメッセージを届けたいのか?

この3点が言語化されていれば、投稿に一貫性が生まれます。そして、その一貫性が「私と同じ悩みを抱えていた人がいるんだ、ここなら私も頑張れるかも」という共感を生み、ファン化・応募への第一歩になります。

Next Action(明日からできること)
・投稿の前に「この投稿は誰に読んでほしいか」をチーム内で言語化する
・ペルソナを「性別・年齢」ではなく「現在の働き方・悩み・望む未来」で定義する
・「その人が、投稿を読んでどう感じるか」を想像して書く
・1枚目のスライドで「〇〇に悩んでいませんか?」と問いかける形を導入する
・投稿の締めに「〇〇な方は、ぜひ一度話を聞きに来てください」とターゲットを明示する

「いいことだけ」を並べたアカウントは、実は信頼されない

「ポジティブ発信=信頼につながる」とは限らない

訪問看護ステーションの採用向けInstagramでは、「アットホームな雰囲気」「働きやすい職場」「制度も充実!」といったポジティブな投稿が並びがちです。しかし実際には、それだけでは求職者の信頼は得られません。なぜなら、「そんなに都合よくいくはずがない」と、見る側は無意識に違和感を持つからです。

特に、現職に悩みを抱えている看護師ほど、キレイごとばかりの投稿には共感しにくくなります。「リアルな声」「正直な苦労」「その上での安心感」がなければ、「この会社、本当のところどうなんだろう?」と疑念が残ります。

本音が“少し混ざっている”からこそ、信頼される

信頼される発信とは、「すべてが完璧」ではなく、「課題や葛藤も開示したうえで、どう向き合っているか」が見える内容です。たとえば、

・「最初は同行訪問でうまく話せなくて、帰り道に泣いたこともありました。でもその夜、先輩が“私も同じだったよ”って電話をくれて…」
・「在宅の看護は、天候や訪問先の状況に左右される難しさもあります。ただ、そのぶん“自分で判断できる強さ”がついた気がします」

といったエピソードがあるだけで、アカウント全体の信頼度は大きく上がります。完璧さよりも、「この職場は本音で話してくれそう」と感じてもらえるかが重要なのです。

「うちに合わない人」もあえて言語化する

実は、訪問看護の現場において「合う・合わない」は非常に明確です。それにもかかわらず、採用発信では“誰でも歓迎”というニュアンスで曖昧にされがちです。

しかし本来、「どういう人が合わないか」も開示することで、逆に「自分は合いそう」と感じてもらえることがあります。たとえば、

・「一人で黙々と働きたい人には、当ステーションは合わないかもしれません。日々の情報共有や声かけを重視しています」
・「完璧な看護よりも、“まず動いてみる”ことを大切にしているので、慎重すぎる人には戸惑いがあるかもしれません」

こうした言葉があることで、「ここなら自分を活かせるかも」という手応えにつながります。逆に言えば、「合わないな」と思う応募がこないことで、お互いにとってのミスマッチを軽減する効果も期待できます。

Next Action(明日からできること)
・「過去に失敗したこと」「最初につまずいた経験」を投稿のテーマに取り入れる
・「うちの職場に合う人・合わない人」をチーム内で話し合い、発信に反映させる
・“本音のエピソード”を1投稿に1文でも入れるよう意識する
・「よかったこと」ではなく「大変だったけど助かったこと」の描写に切り替える
・フォロワーや求職者からの信頼獲得は、「誠実な開示」によって高まると捉える

LINE誘導や問い合わせ導線を放置していませんか?

投稿が良くてもアクションにつながらない理由

Instagramを採用に活用するうえで、最も見落とされがちなのが「次の一歩」を案内する導線の存在です。どれだけ共感できる投稿であっても、「話を聞いてみたい」「質問してみたい」と思った時に、問い合わせの方法がわからなければ、応募はおろか接点すら生まれません。

よくあるケースとして、「プロフィールのリンクが採用ページにつながっていない」「LINEのIDが古くて動いていない」「DMに返信がない」といった細かい不備が、機会損失の原因になります。つまり、採用投稿をどれだけ作り込んでも、導線が整っていなければ、反応はゼロに等しいのです。

「気軽に接点を持てる」仕組みがあるか?

訪問看護のように仕事内容がイメージしづらい職種では、「いきなり応募」は心理的ハードルが高くなります。そのため、「カジュアル面談」や「ステーション見学」「LINE相談」など、軽い接点を用意することが不可欠です。

たとえば、

・プロフィールに「LINEで相談できます」と明記し、URLを設定しておく
・投稿の最後に「ご質問はDMまたはLINEからどうぞ」と一言添える
・DMがあった際は即レスする

といった小さな工夫が、求職者との距離を一気に縮めます。

重要なのは「関心を持った人が、すぐにアクションを取れる」状態を保つことです。

アカウント全体の「導線設計」を定期的に見直す

導線が機能しているかは、一度整備して終わりではなく、定期的なチェックが必要です。たとえば、

・LINEリンクはエラーになっていないか?
・自社採用ページはスマホでも見やすいか?
・プロフィールの説明文は今の運用方針と一致しているか?

といった点を毎月1回程度、社内で点検することで、見落としを防ぐことができます。導線が整備されていれば、フォロワーの動き方にも変化が出てくるはずです。また導線はステーションによって異なりますので、自分達のステーションではどの導線が1番最適化を分析することも大切です。

Next Action(明日からできること)
・Instagramプロフィール欄に「LINEで相談OK」「見学可」などの導線文を追加する
・LINE公式アカウントのリンクが有効かどうか、定期的にテストする
・投稿内に「興味があればまずはLINEから」と記載を入れる
・ストーリーズで「LINEで質問受付中」など、接点を案内する投稿を定期配信する
・投稿の最後に「この投稿が気になった方は、まずは話だけでも聞いてみませんか?」と行動を促す一文を入れる


SNS採用、とくにInstagramの活用は、正しい方向で続ければ大きな力になります。しかし、なんとなく始めて、なんとなく続けているだけでは成果にはつながりません。大切なのは「誰に」「何を」「どう伝えるか」を言語化し、求職者との接点を具体的に設計することです。本記事をきっかけに、今の発信の目的や内容を一度立ち止まって見直し、「ただの投稿」を「共感と信頼を生む発信」へと転換していく一歩になれば幸いです。



監修者:権守 泰純(Yasuyoshi Gonmori)

株式会社HOAP代表取締役。2022年に創業し、医療・介護業界に特化した採用支援事業を展開。現在は訪問看護・訪問診療訪問歯科など在宅分野からクリニックなど、業界特化で採用支援事業を展開。


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